覆輪ふくりん)” の例文
真っ赤な日輪は今、渋谷の山の端に沈みかけて、覆輪ふくりんをとった夕雲が、むらむらと宵の空をつくりかけていた。地上はもう夕闇だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿やどと、宿やどで、川底かはそこいはゑぐつたかたちで、緑青ろくしやうゆき覆輪ふくりんした急流きふりうは、さつ白雲はくうんそらいて、下屋げやづくりのひさしまれる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黙って聞いていろ、まだ後があるんだ。ところでその三人の娘はみな源内先生創製するところのみねに銀の覆輪ふくりんをしたくし
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その白金はっきん覆輪ふくりんがまた何よりも強く眼をったのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かざせばその手に、山も峰も映りそう。遠い樹立は花かと散り、頬に影さす緑の葉は、一枚ごとに黄金きん覆輪ふくりんをかけたる色して、草の露と相照らす。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金砂子きんすなご覆輪ふくりんを取った螺鈿鞍らでんぐらに、燃ゆるような緋房ひぶさをかけ、銀色のくつわ紫白しはくの手綱。——甚内の眼は射られた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また長崎から取り寄せた伽羅きゃらで櫛をかせ、そのみねに銀の覆輪ふくりんをかけて「源内櫛げんないぐし」という名で売出したのが大当りに当って、かみは田沼様の奥向おくむきからしもは水茶屋の女にいたるまで
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
暗がりに目がれたのか、空は星の上に星がかさなって、そこひなく晴れている——どこの峰にも銀の覆輪ふくりんはかからぬが、おのずから月の出の光が山のはだとおすかして、いわかけめも、路の石も
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらに柴進その人は、巻毛の白馬に覆輪ふくりんの鞍をすえてまたがり、かしらにはしゃ簇花巾ぞっかきんほう(上着)はむらさき地に花の丸紋、宝石入りのたい、みどりじま短袴たんこ朱革しゅがわの馬上靴といういでたち。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地獄ぢごくぶやうにすべむと、あを火鉢ひばち金色きんいろひかつて、座布團ざぶとん一枚いちまい、ありのまゝに、萌黄もえぎほそ覆輪ふくりんつて、しゆとも、とも、るつぼのたゞれたごとくにとろけて、燃拔もえぬけた中心ちうしんが、藥研やげんくぼんで
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)