蘊蓄うんちく)” の例文
学会などにおけるディスカッション振りにも、やはり優れた頭脳と蘊蓄うんちくを示して、常に「最後の言葉」を話す人であったそうである。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼はその数十年の蘊蓄うんちくを傾けて、フランス料理の憲法を編み初めた。彼はそれを再実験すると同時にぼつぼつ老の手で紙に書き留めた。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ますます蘊蓄うんちくを深められつつあり、奥様もまた先生と同じ学問に志をたてられて、内助の功まことにお見事に、御令息御令嬢
呉秀三くれしゅうぞう博士の『精神啓微』や『精神病者の書態』を愛読して、親しく呉博士をおとのうて蘊蓄うんちくたたいたのはやはりその頃であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「古学をんで、近代の戦術を説き、孫子十三篇になぞらえて、孟徳新書と題せらる。この一書を見ても丞相の蘊蓄うんちくのほどがうかがえましょう」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐともう名人のせりふを受け売りしながら、肩で風を切り、ありったけの蘊蓄うんちくを傾けて、いらざることをべらべらとしゃべりつづけました。
しかしいずれの方面に筆をとられたものとしても、これこそ作者独得の擅場せんじょう、充分蘊蓄うんちく披瀝ひれきされることを望ましく思う。
「恐れ入ったもんだろう? まだ沢山あるんだが、蘊蓄うんちくを一々披瀝ひれきしていると果しがないから、この辺で止めにして置く」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もっとも芦田君は、ある文学者の会合で、チェホフについて蘊蓄うんちくを傾け、三十分以上も論じたという、文学好き政治家としての記録保持者である。
だが、今の天下にこんな博識にして蘊蓄うんちくの深い人物がいるとは、聞き及ばなかった。しかも、白面の青年じゃないか。あるいはこれは、人間じゃあるまい。
支那の狸汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
……云ってみれば、社長はそのちょび髭と秘密文書による蘊蓄うんちくをもっぱら妻君に提供したものだろう。が、社長には社長でまたそこに計画があったものさ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の偉大な蘊蓄うんちくに、けしつぶぐらいの知識を加えるためにも、彼は人間の生命——なかんずく、彼自身の生命、あるいはそのほか彼にとって最も親しい者の生命でも
そしてその蘊蓄うんちくせるところの智識、ことに財政上に於ける意見を吐露するの機会を得たのである。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
蘊蓄うんちくの底の深いこと、玄人くろうとはかえって、秀吉よりも、信長よりも、こういう人を好くことがある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古書画の鑑定については、その著『後素談叢』を見ても蘊蓄うんちくの深さが窺われる。古社寺取調委員として全国を回った記録が、一々優雅な題名を付して数十冊に及んでいる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
二人とも最初は林技師の蘊蓄うんちくの物凄いのに仰天して膝を乗出して傾聴していたものであったが林技師大得意のスカンジナビヤ半島談あたりからポツポツ退屈し初めたらしく
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蘊蓄うんちくを深く、根底から確乎とした自身の発展的推進力を高めて行かなければ、真に世界文化の水準に到達することは困難である、という自戒を感じているのではないかと思う。
「どう考えるか」に就て (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこに湯川氏の数算と長年の蘊蓄うんちくが役に立って石川の家運はあがった。その頃の湯川氏の知己の名は自毛村じけむらであるとか、三野村みのむらだとか錚々そうそうたる大実業家となった人たちである。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とその小説家先生が腹を抱えたから、雷学の私の蘊蓄うんちくのほどに驚嘆したか? と思いのほか
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その故は何かというに『鶉衣』の思想文章ほど複雑にして蘊蓄うんちく深く典故てんこによるもの多きはない。それにもかかわらず読過其調の清明流暢りゅうちょうなる実にわが古今の文学中その類例を見ざるもの。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらに裏面に蘊蓄うんちくする理をたずぬることなく、その結局、釈迦もしくはヤソのごとき千古に超絶せる大聖、大賢の言に、いやしくも虚妄あるべき道理なしと思い、徹頭徹尾固くこれを信じ
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
尊敬する漱石氏が蘊蓄うんちくを傾けて文章を作ってみたらよかろうという位な軽い考であったのであるが、一度び「猫」が紙上に発表されて、それが読書界の人気を得て雑誌の売行うりゆきが増してみると
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
このように飽くまで平和的手段に出られると、ブロムはひどくしゃくさわったが、彼がうつ手はただひとつ、田舎流のいたずらの蘊蓄うんちくをかたむけて、恋敵にさんざんのわるさをするよりほかなかった。
蘊蓄うんちくを傾けられるのですが、芝居の方には二百何十年という長い間の伝統があって、いろいろ工夫を積んだ結果、今日のようなものになっているのですから、平凡なようでも無事な型が出来ている。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その風物習俗の奇異、耳目じもく聳動しょうどうせしむるに足るものなきにあらず。童幼聞きて楽しむべく、学者学びて蘊蓄うんちくを深からしむべし。これそもそも世界の冒険家が幾多の蹉跌さてつに屈せず、奮進する所以ゆえんなるか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
つまり元禄の佳句には蘊蓄うんちく多く、天明には少し。天保以後は総たるみにて一句の採るべきなし。和歌は『万葉』はたるみてもたるみかた善し。『古今集』はたるみて悪し。『新古今』はややしまりたり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
数年来胸中にしらずに蘊蓄うんちくされた熟慮じゅくりょを引き出させたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その多年蘊蓄うんちくした学力を示すこととなった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
その話がまた、いちいち該博がいはくで、蘊蓄うんちくがあって、そしててらわずびずである。惚々ほれぼれと人をして聞き入らしめる魅力がある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
配膳はいぜんが終ると主催者が起つて挨拶あいさつをはじめ、次いで長々と狸肉の味について、その蘊蓄うんちくを傾けるのである。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
せっかく蘊蓄うんちくを傾けようと思うとこれだ、ひと口めにはおまえなんぞの作はとくるが、小説なんぞと軽く考えたら大間違いですぜ、なにげなく出て来る笛一本にしたところが
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
明治時代は、学校で学問をすることと、社会に出てからその蘊蓄うんちくを傾けて立派な人間的活動をすることとは、少くとも或る程度までは一致して考えることが出来ていた。現在はそうでない。
若き時代の道 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこで今、その蘊蓄うんちくの一端を羅列してみると、まず満州、昔はサッパリ鳴らなかったが、日本人が入り込むようになってから、大分鳴り出したという話。ただし、あんまり強くはねえそうだ。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
欧羅巴ヨーロッパの文明というものは間違っているです、蒸気が走り、電気が飛び、石炭が出る、機械がどよめく、それで、人が文明開化だといって騒いでいるだけのものです、蘊蓄うんちくということを知らないで
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大工、鍛冶仕事から、工場の設計、経営上の計算まで、行くとして可ならざるはなし、でその蘊蓄うんちくも専門家に譲らぬほどだった。たいがいのことは彼一人で用が足せた、全く稀しい万能職人であった。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
彼の和漢の学に対する蘊蓄うんちくは深められてゐた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「しかし、わしもまだ、一介の学僧にすぎんのじゃから、果たして、範宴どのの求められるほどの蘊蓄うんちくがこちらにあるかないかは知らぬ」と謙遜けんそんした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらばこれより筆者の蘊蓄うんちくを傾注して、この雄大なる物語を始めるといたそう。
「光井も来るそうだ。是非来いよ。今夜は一つ大いに蘊蓄うんちくを傾けて見せるぞ」
海流 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、八風斎がしめしたのは、かれが学力の蘊蓄うんちくをかたむけて、くまなくさぐりうつした人穴ひとあなの攻城図、獣皮じゅうひにつつんで大せつに密封みっぷうしてあるものだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正四郎が監査役になってからあしかけ三年、去年も石垣町の梅ノ井で酒宴があり、彼は江戸仕込みの蘊蓄うんちくのほどをみせて喝采かっさいを博した。今年は勘定奉行が交代して、村田六兵衛という老人になった。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
軍学の蘊蓄うんちくは当代屈指のひとりと数えられ、戦うや果断、守るや森厳しんげん、度量は江海こうかいのごとく、その用兵の神謀は、孔明、楠の再来とまで高く評価している武辺ぶへんでもある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひとを笑うほどな計策のある者は、大いにここで蘊蓄うんちくを語れ。予も聞くであろう」と、いった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……あはははは。これはとんだ軍学の代講をしてしまった。この上、商売ちがいの蘊蓄うんちくを傾けては病人の小幡勘兵衛が扶持ふちばなれになろうも知れん。……ああのどかわいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすれば孔明もまた報ゆるに、自分の蘊蓄うんちくを傾けて、御身に授け与えるであろう
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さすがは孔明、よく論破された。わが国の英雄、みな君の弁舌におおわれて顔色もない。そも、君はいかなる経典に依ってそんな博識になったか。ひとつその蘊蓄うんちくある学問を聴こうではないか」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)