華厳けごん)” の例文
旧字:華嚴
「まいりましょう——あなたのお指図さしずなら、どこへでも」どこ、華厳けごんの滝までもという歌を——思わず——口もとまで思い浮べた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「いたずらは、たいがい常識をかいていまさあ。救っておやんなさい。功徳くどくになりますよ。あの容子ようすじゃ華厳けごんの滝へ出掛けますよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
特に、夕日が西に傾いて、その赤い光線が樹々の紅葉を照らす時の美しさは、豪華というか、華厳けごんというか、実に大したものだと思った。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
吹上のお茶屋の近くにあるのが作兵衛滝、船見山の森林を水源とする三筋滝、もうひとつは寛政滝かんせいだき、それは華厳けごんおもむきがあるとのことです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道衍の言を考うるに、大槩たいがい禅宗ぜんしゅうに依り、楞伽りょうが楞厳りょうごん円覚えんがく法華ほっけ華厳けごん等の経に拠って、程朱ていしゅの排仏の説の非理無実なるを論ずるに過ぎず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかんせん世のならいである。いずれは身のつまりで、げて心中の覚悟だった、が、華厳けごんの滝へ飛込んだり、並木の杉でぶら下ろうなどというのではない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御当人は仕方がないとしても社会の人がそれを読んでその不平や悲みに伝染するから困る。伝染の極端が華厳けごんたき飛込とびこむという事になるからいよいよ困る。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
海印三昧かいいんざんまいということを鶴見はしきりに考えている。仏が華厳けごんを説いたのはその海印三昧を開いたものである。それによって始めて自内証の法が説き示された。
禅のほかに華厳けごん哲学や日本で特に発達した他力思想の如きも、キリスト教文化に斬新ざんしんな贈物となるであろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
少し失敗すればぐに浅間あさまだ、華厳けごんだという。これは畢竟ひっきょう身体が弱く、神経ばかり鋭敏になるからである。
運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それに、一人でほんばかり読んでいるのは、若い者にはしですよ、神経衰弱になったり、華厳けごんに飛び込んだりするのはそのためだと言うじゃありませんか。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
滝は華厳けごんよりも規模は小さいが、思つたよりも好かつた。石畳いしだたみの道をのぼつて行くと僕は息切れがした。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
華厳けごんの滝がれたところで、私は格別、痛嘆しない。けれども、俳優、羽左衛門の壮健は祈らずに居れないのだ。柿右衛門の作ひとつにでも傷をつけないように。
直下せずして、曲折するが、日光の華厳けごん滝よりははるかに高き也。この滝の水、落ちて間もなく、忠別川に入る。川に沿い、数町下りて、松山温泉に投ず。忠別峡中の一軒屋也。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
帰りが急がれたので、華厳けごんの滝は見ずにしまった。私たちはゆきは電車で行ったが、かえりは彼女が提案して汽車で帰った。浅草へ寄って蕎麦そばを食べて、廓の入口まできて別れた。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
譬喩は即ち寓話です、寓話は即ち子供だましです、およそ四諦十二因縁したいじゅうにいんねんのわからぬものにも譬喩はわかります、阿含あごん華厳けごんの哲学に盲目なものも、寓話の手裏剣には胸を貫かれるのです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浅草から出る東武電車とやらに乗れば、降りてからバスの連絡があって、東照宮から華厳けごんの滝、中禅寺湖まで見物して日帰りで行って来られるそうな、兄さんも是非そうしてやってほしい
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして、お前とならばどこまでも、ナイヤガラはあまり近過ぎるから、華厳けごんの滝へでも飛びこむか、或は松屋呉服店の頂上から飛び降りてもかまわないという程にのぼせ込んだのであった。
変な恋 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こひ』は華厳けごん寂寞じやくまくに蒸し照る空気うちあふる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
仁和寺にんなじ慶存けいぞんをたずねて、華厳けごんを聴き、南都の碩学せきがくたちで、彼はといわれるほどな人物には、すすんで、学問を受けた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この邪魔ものの一局部へ頭をたたきつけて、せめてひびでも入らしてやろうと——やらないまでも時々思うのは、早く華厳けごんたきへ行きたいからであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滝は華厳けごんよりも規模は小さいが、思ったよりも好かった。石畳いしだたみの道をのぼって行くと僕は息切いきぎれがした。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
華厳けごんたきや、吉野山など、ことにも色彩が見事で、いまでもあざやかに記憶に残っているが、時事の画片としては、やはり、旅順港封鎖、水師営すいしえい会見、奉天ほうてん入城など
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
華厳けごんの下あたりまでその路を開いたら、更に新らしいすぐれた渓谷が展開されて来はしないか。
あちこちの渓谷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
由来、お寺の“逢曳あいびき”というものは、妙に秘かな春炎と妖情を増すものだった。釈迦しゃかおしえ華厳けごんまじない真言しんごんの秘密。それと本能が闘って燃える。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短銃ピストルでも九寸五分くすんごぶでも立派に——つまり人がめてくれるように死んでみたいと考えていた。できるならば、華厳けごんたきまででも出向きたいなどと思った事もある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
所謂いわゆる「天下第一」の風景にはつねに驚きが伴わなければならぬ。私は、その意味で、華厳けごんの滝を推す。「華厳」とは、よくつけた、と思った。いたずらに、烈しさ、強さを求めているのでは、無い。
富士に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
華厳けごんたきにしても浅間あさま噴火口ふんかこうにしても道程みちのりはまだだいぶあるくらいは知らぬに感じていたんだろう。行き着いていよいよとならなければ誰がどきんとするものじゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、当代の碩学せきがくのうちで、華厳けごん真髄しんずいを体得している人といえば、この人の右に出ずるものはないということは、世の定評であり、慈円僧正も常にいわれているところである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華厳けごん」は、よかった。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
華厳けごんを研究して、叡山の若僧じゃくそうのうちでは、並ぶ者がないよしを噂に聞いたが」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)