舷梯げんてい)” の例文
濱島はまじまふね舷梯げんていまでいたつたときいま此方こなた振返ふりかへつて、夫人ふじんとその愛兒あいじとのかほ打眺うちながめたが、なにこゝろにかゝることのあるがごとわたくしひとみてんじて
ボートは、青い青い水を切って、傷ついた戦艦『メーン』のふなばたについた。舷梯げんていがなくなって、縄梯子なわばしごがぶらりと下っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
道路のアスファルトがやわらかくなって靴のあとがつくという灼熱しゃくねつの神戸市中から、埠頭ふとうに出て、舷梯げんていをよじて、くれない丸に乗ると、たちまち風が涼しい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
葉子はそのいまいましい光景から目を移して舷梯げんていのほうを見た。しかしそこにはもう乳母の姿も古藤の影もなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
のみならず舷梯げんていを上下するのは老若の支那人ばかりだった。彼等は互に押し合いへし合い、口々に何か騒いでいた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、彼等は一人一人静かに舷梯げんていりて行ったが、最後の一人が汽艇ランチに納まったのを合図に、憲兵達はソレッとばかり一斉に跳びかかって、彼等に手かせをはめてしまった。
猩猩しやう/″\党は何処どこかで飲み倒れて仕舞しまつたのであらう。𤍠田丸の濡れた舷梯げんていのぼつて空虚な室に一人寝巻に着更へた時はぐつたりとつかれて居た。枕頭ちんとうに武田工学士からの招待せうだい状が届いて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
外科医のワトソンは、二人の日本青年が舷梯げんていから降されるのを見た。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
博士は腰をたたきながら、にこにこ顔で舷梯げんていをのぼって来ました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かろ服裝ふくさうせる船丁等ボーイらちうになつてけめぐり、たくましき骨格こつかくせる夥多あまた船員等せんゐんら自己おの持塲もちば/\にれつつくりて、後部こうぶ舷梯げんていすで引揚ひきあげられたり。
若者はこの乱暴にかっとなって怒り狂ったが、その船員は小さな荷物でも扱うように、若者の胴のあたりを右わきにかいこんで、やすやすと舷梯げんていを降りて行った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人一倍体のたくましいSは珍しい日の光を浴びたまま、幅の狭い舷梯げんていくだって行った。すると仲間の水兵が一人ひとり身軽に舷梯を登りながら、ちょうど彼とすれ違う拍子ひょうし常談じょうだんのように彼に声をかけた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
清君と燁代さんは、身軽に舷梯げんていをかけ下りて、内火艇に乗りうつった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
手早くしたためて、その紙片を持ちながら、舷梯げんていをかけ上った。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
昔葉子に誓った言葉などは忘れてしまった裏切り者の空々そらぞらしい涙を見せたりして、雨にぬらすまいとたもとを大事にかばいながら、傘にかくれてこれも舷梯げんていを消えて行ってしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こたへるとかれ莞爾につこ打笑うちえみ、こも/″\三人みたり握手あくしゆして、其儘そのまゝ舷梯げんていくだり、先刻せんこくから待受まちうけてつた小蒸滊船こじやうきせんうつすと、小蒸滊船こじやうきせんたちまなみ蹴立けたてゝ、波止塲はとばかたへとかへつて