紛失ふんしつ)” の例文
その上、女の歸つた跡を見ると、留守中に探したものと見えて、用箪笥の抽斗ひきだしに入れて置いた、平次の覺え書が紛失ふんしつして居ります。
火辻の死体が紛失ふんしつしたことは、その夜のうちに知れわたり、さっそくこの怪事件の捜査そうさがはじまったが、その解決はなかなか困難だった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ピストルをひろいあつめ、それをカバンにおさめるついでに、その中のいろいろな品物を紛失ふんしつしていないかどうかを、念入りに点検するのでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いや、御安心ください。大石殿からお預りして、おのおの方にお渡しするはずの金子は、別にしまっておいたからだいじょうぶでござる。ただ手前の小遣い銭が少々紛失ふんしついたした」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
半分紛失ふんしつしている小鼻こばなのわきへ、タラタラと脂汗あぶらあせをながしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その混亂こんらんのあとには、持出もちだした家財かざい金目かなめのものがすくなからず紛失ふんしつした。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取調とりしらぶるに道庵方にて紛失ふんしつせし單物一枚出たる故女房は家主へあづけ甚兵衞は直に召捕めしとりなほ懷中くわいちう其外所々改めし所胴卷どうまきに金十二兩餘あり又同人宅の床下ゆかしたに金二十八兩是あり都合四十兩の金出しにより其金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
端艇競漕ボートレース本職ほんしよくことだから流行はやるのも無理むりいが、大事かんじん端艇ボートかつおこつた大颶風だいぐふうめに大半たいはん紛失ふんしつしてしまつたので、いまのこつてるのは「ギク」一さう、「カツター」二さうで、オール餘程よほど不揃ふぞろひなので
銭はもらったこともあるが大概たいがい忘れて紛失ふんしつするのでりたらしい。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「主人の死骸が、何處へ消えたか、それを搜し出すんだ。それから死骸が紛失ふんしつしたとき、福之助は皆んなの前から姿を隱さなかつたか」
国会議事堂の上からころがり落ちた動くマネキン少年人形の肢体したいとともに、おなじ夜に紛失ふんしつした猿田の死体の顔とおなじであったから、ますます奇怪きかいであった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女房にようばう紛失ふんしつした、と親類しんるゐ知己ちき電報でんぱうけられない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ならびに官馬かんば八頭が紛失ふんしつする事
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人と言つても、隱居同樣の染井鬼三郎が、床の中で絞め殺され、その始末もつかぬうちに、翌る晩には、死骸が紛失ふんしつしてしまつたのです。
紛失ふんしつ、赤革トランク、特別美かつ大なる把柄はへいあり、拾得届出者に相当謝礼、姓名在社三二五番
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
車麩くるまぶ紛失ふんしつしてる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大公儀が甲府勤番の諸士をまかなふために用意した五千兩の大金、柏木で紛失ふんしつしてしまつたでは、土地の御用聞の寅吉の顏が立たなかつたのです。
私は、まことに遺憾いかんであったが、クロクロ島の紛失ふんしつについて、鬼塚元帥に報告をする決心を固めたのであった。元帥は私の報告を聞いて、どんなに気を落されることであろうか。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女體の額の小さい夜光石の紛失ふんしつは、幾らか氣が樂になりましたが、男體の額の大きい夜光石の安否あんぴも一度は見定めて置く必要があつたのです。
してみれば、「骸骨の四」が紛失ふんしつしていたことがひとつの手がかりかもしれない。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
萬一それが紛失ふんしつすれば、秤座役人のかぶを召上げになつた上、この守隨彦太郎腹でも切らなければなるまい。——が、それは大丈夫だ。三重の締りを
紛失ふんしつした死体の主は、上野駅のまえで、トラックに追突ついとつされてひっくりかえり、運わるく頭を石にぶつけて、脳の中に出血を起こして頓死とんしした四十に近い男であって、どこの何者ともわからず
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三四日前に手文庫の封を切られた時、中味が紛失ふんしつせずに、念入りに僞物と變つて居たのが第一番の不思議で御座います。
世間では、新宿のホームから飛びこんで轢死れきしした婦人の身許みもともわからないし、地下にほうむったはずの死骸が紛失ふんしつした不思議さを、今もなおおぼえていて、あれも赤外線男の仕業だろうと云っているようだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
厭だよ、誰が何と言つても、俺は大名の御家騷動に掛り合ふのは御免だ、——茶碗一つ、色紙一枚紛失ふんしつしても、腹を切つたり、手討になつたりする世界だ。
三角暗礁あんしょうにて——クロクロ島の紛失ふんしつ
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金藏の中に貯へた、越前屋の全部の富、五つの千兩箱のうち、三つまでが紛失ふんしつして居ることがわかつたのです。
三つの紛失ふんしつ事件
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今度は繪圖面が紛失ふんしつして、お家の安危にかゝはるから、つて御出府を願ひたいと仰しやればいいんで——」
警官の紛失ふんしつ
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「娘の頬の傷は兎も角、御墨附が紛失ふんしつしては、大公儀への申譯が相立たない。表沙汰になれば、輕くて閉門、減地。重くて切腹を仰せ付けられまいものでもあるまい」
其處はまだ昨夜のまゝの碧血へきけつまみれて、部屋の中程に、中間半次は自分の匕首——一度紛失ふんしつしたといふ——細身の一口を左乳の下に刺しつらぬき、兩手を疊に突いたまゝ
巨盜の幽靈の手紙は、明かに紛失ふんしつしましたが、幸ひ總右衞門が文句をそらんじて居るのと、留吉が筆跡や紙をよく見て置いたので、大體のことは平次にも想像がつきます。
後で念入りに調べて見ると、書き役の書類の中から、いつぞやお前に追はれて、品川沖で海の中に沈んだ兇賊『疾風』(『八人藝の女』參照)の記録だけが紛失ふんしつしてゐる
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
その頃の物の考へやうから言へば、御朱印の紛失ふんしつは、若旦那殺しよりは遙かに重大な事件です。
紛失ふんしつしてお腹を召さうとなさいます。一應は止めましたが、書面が出て來ない以上は、のめ/\と生きては居られぬと申します。平次樣、お願ひで御座います、お助け下さいませ
御用聞が十手を紛失ふんしつするといふことは、武士が兩刀を無くしたよりも重大なことでした。
「お家の重寶友切丸ともきりまるか何か紛失ふんしつしたんだらう、むづかしい顏をしてゐるぜ、親分」
「平次か、千兩箱が見付かつても、お鏡やお墨附が紛失ふんしつしては何んにもならぬぞ」
「旦那、それは御無理で、澤屋さんから金は借りましたが、旦那に娘を上げるとは申しません。それに重なる災難で、昨日も三千兩の金が紛失ふんしつし、思案に餘つてゐるところでございます」
お袖を宜い加減かげんにして、それから若旦那の初太郎に逢つて見ましたが、これは父親の横死から、家の沒落、番頭の死、八千兩の紛失ふんしつ、戀女房のお袖にふりかゝる恐ろしい疑ひなどに顛倒して
「あつしは平次でございますが、何にか大切なものを紛失ふんしつなすつたさうで」
「どうしてそれを、——紛失ふんしつしたのは、救世觀音の尊像を描いた、巨勢金岡の名筆ぢや——申し遲れたが拙者は、湯島天神町の旗野丹後守たんごのかみの用人久保木桂馬くぼきけいまと申す。お見知り置きを願ひたい」
誰か知らぬが、二三日前に龍の口の目安箱に、——宇佐美家の御墨附が紛失ふんしつしたに違ひない、嚴重に御詮議があるやうに——といふ訴状を投げ込んだ者があるさうで、御係りからきびしい御達しだ。
「錢形の親分、近頃お南の奉行所に變な者が出入りする樣子です。出入り商人にも變りはなく、曲者の忍び込んだ樣子もないのに、お奉行所の中でいろ/\變つたことが起つたり、妙な物が紛失ふんしつします」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
三日目に、番頭の祿兵衞は、店で紙入れを紛失ふんしつしました。