こと)” の例文
広い室内のすみの方へ、背後うしろに三角のくうを残して、ドカリと、傍床わきどこの前に安坐あんざを組んだのは、ことの、京極きょうごく流を創造した鈴木鼓村こそんだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あ、そうですか、先生が尺八で、あなた様がおことで、わたくしが三味線で……それは至極よろしうございます、お相手を致しましょう。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それかあらぬかロセッチのいた絵に地中海で漁夫ぎょふを迷わすサエレンという海魔に持たしてあるのは日本のことだ、しかもそれが縦にしてある
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
こと胡弓こきゅうかなでがどこかに聞え、楼畔ろうはんの柳はふかく、門前のえんじゅのかげには、客の乗馬がつないであった。すべてこれ、一ぷく唐山水とうさんすいの絵であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二一吉備津きびつ神主かんざね香央造酒かさだみき女子むすめは、うまれだち秀麗みやびやかにて、父母にもよく仕へ、かつ歌をよみ、二二ことたくみなり。
淇園きえん一筆』に、大内おおうち甲子祭きのえねまつりの夜紫宸殿ししんでんの大黒柱に供物を祭り、こと一張で四辻殿林歌の曲を奏す。
この一堂のうち綺羅きらかおりをぎ、和楽のあたたかみを吸うて、落ち合うからは、二人の魂は無論の事、けて流れて、かき鳴らすこといとの細きうちにも、めぐり合わねばならぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汽車中にてまた新版の藤村様御集、久しぶりに彼君かのきみのお作読み候。はじめのかたは大抵そらにも覚えをり候へば、読みゆくうれしさ、今日ここにて昔のことの師匠にひしと同じここちに候ひし。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
宮城という人のことはきいてよいものの由です。こういう会でもね、宮城という人は自分のうちで開かせますが、自分はひかない。挨拶だけをする。ね、気質わかるでしょう? 利口さも。
天蓋山の鉱山かなやまからも、また船津の城下からも、ひとしく二里の道程みちのりを距てた、飛騨きっての歓楽境、例えばむろの津、潮来いたこのような、遊君または狡童こうどうなどの売色の徒、館を並べ、こと、笛、鼓
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その優しいことのような声だけでも皆の頭はしまった。その時、すてがいった。
我が囁く曲は、アイオルスのことの如く
自分も、横浜のとても住居すまいも若い時から造らせた好いことも、なにもかも震災の難にあって、命だけたすかった、身に覚えのある痛手いたでなので
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
自分は幼な心にも物凄く覚えて、ことというものに対して何だか一種凄い印象が今日こんにちまで深く頭に刻み付けられているのだ、論より証拠、寺の座敷か
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
吉備津神社きびつじんじゃ神主香央造酒かんぬしかさだみきの娘は、うまれつき優美典雅で教養があり、父母にもよく孝養をつくして、そのうえ和歌もうまくよみ、ことも上手にきます。
九月九日は重陽ちょうよう節句せっくである。この誓いの式は「菊花の会」につづき、山も風流な宴にいろどられた。月明の下、馬麟ばりんしょうを吹き、楽和がくわはうたい、また燕青えんせいことを奏でた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまで神前にある間は鼠が食わず、鼠を神が封じたからという。また大内で甲子の祭の夜、紫宸殿の大黒柱に供物を祭り、こと一張で四辻殿林歌の曲を奏す。これもと大極殿の楽なり。
「そのことでなんかいて見ましょうか、真っ黒になってて、鰹節かつぶしみたいな古い箏だけれど、それは結構なを出すの。」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
恰度ちょうど葬式だとの事、段々だんだんその死んだ刻限をきき合わしてみると、自分が聴いたことの音の刻限とぴったり合うので、私は思わず身震みぶるいをしたのであった
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
燕青のことにあわせ、この夜めずらしく大酔した宋江が、こう自作の即興を歌ったのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼓村師の、大きな体と、ひろびろしたほおをもつ顔に似合わない、小いさな眼が、ことの上に顔ごとつきだされた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
時折には、独り閉じて、ことをかき鳴らしていることもあった。その古箏もいとも久しいので
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浜子は、壁によせて立ててある「吹上ふきあげ」というのあることに手をかけていた。「吹上げ」の十三本のいとの白いのが、ほのかに、滝が懸かったように見えている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
下婢かひのする水仕事まで手伝ってするし、あの手で、ことも弾くし……」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、平日いつも口重くちおもな、横浜生れではあるが、お母さんは山谷さんや八百善やおぜんの娘であるところの、ことの名手である友達は、小さな体に目立めだたない渋いつくりでつつましく、クックッと笑った。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「御近所の方がわらいますよ。ことでもくか、お書初かきぞめでもなさい」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「舞うのは嫌、胡弓か、ことならいてもよいけれど」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)