)” の例文
婆あさんが最後に蓋を切つて味を見て、それから杓子をれいの杖のやうにてて、「さあ、皆お掛、御馳走が始まるよ」といつた。
此処からシデや令法(方言、牛の糞)やかえでなどの茂った山の横をからみながら少し行くと、雨樋をてたような潜り戸の狭間が待ち構えていた。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
剣を取る時は平青眼ひらせいがんにじっとつけて、相手の眼をみつめながらジリリと進む、それに対するといかなる猛者もさも身の毛がったそうであります。
われは毛髮さかしまちて、卓と柩との皆獨樂こまの如く旋轉するを覺え、身邊忽ち常闇とこやみとなりて、頭の内には只だしくたへなる音樂の響きを聞きつ。
尻に毛なくして尾短し、手足人のごとくにて能くって行く、その声嗝々かくかく(日本のキャッキャッ)としてせきするごとし。
風は※々しゅうしゅう両腋りょうえきに起こりて毛髪ち、道はさながらかわのごとく、濁流脚下に奔注ほんちゅうして、身はこれ虚空をまろぶに似たり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫の行くてには常に、二つの峰の並んだ山の立ち姿がはっきりとそびえて居た。毛孔けあなつようなおそろしい声を、度々聞いた。ある時は、鳥の音であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「気張るぞ」と今一人の船頭が言って、左のひじをつと伸べて、一度拳を開いて見せ、ついで示指ひとさしゆびてて見せた。この男は佐渡の二郎で六貫文につけたのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
数歩すほを行けば、宮が命を沈めしそのふちと見るべき処も、彼がけたる帯をきしそのいはほも、歴然として皆在らざるは無し! 貫一が髪毛かみのけはりの如くちてそよげり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
忽然兄きは頭をつて、死人のやうな顔色になりました。そして右の手の示指ひとさしゆびてゝわたくしに見せるのです。それが『気を付けろ』といふのだらうとわたくしには思はれたのでございます。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
夫人は示指ひとさしゆびてゝ、みつゝ我顏を打守り、油斷のならぬ事かな、さるいちはやき風流みやびをし給ふにこそ、否々、面をあかめ給ふことかは、君のよはひにては
倶胝ぐてい和尚は指をて、趙州じょうしゅう和尚はかしわの樹を指さしたということだから、慢心和尚がああして幽霊のような手つきをして、自分の円い頭を辷らしているところに
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虎答えていわく、汝毛ちて森々しんしんたり、諸畜中下極たり、猪汝速やかに去るべし、糞臭堪ゆべからずと。
フランツは麻のようなブロンドな髪が一本一本逆につような心持がして、何を見るともなしに、身の周匝まわりを見廻した。目に触れる程のものに、何の変った事もない。
木精 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
若者血かたまり毛つまで怖ろしかったが、思い切って蛇群中に割り込むと、蛇ども怒りうそぶき、口を開いて咬まんとすれど、身々密にあいまとうて動作自在ならず、かれこれ暇取る内に
アヌンチヤタこの活劇を眺めたるが、にはかに我に向ひていふやう。かの大穹窿の上なる十字架に火皿を結び付くる役こそおそろしけれ。おもひ遣るに身の毛いよつ心地す。われ。
先手さきては両藩の下役人数人で、次に兵卒数人が続く。次は細川藩の留守居馬場彦右衛門、同藩の隊長山川亀太郎、浅野藩の重役渡辺きそうの三人である。陣笠小袴こばかまで馬にまたがり、持鑓もちやりてさせている。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
餌をねらいまた笛声を聴く時、それを拡げると喉が団扇うちわのようにふくれ、惣身そうみの三分一をててうそぶく、その状極めて畏敬すべきところからインド人古来これを神とし、今も卑民のほかこれを殺さず。
山内家の紋を染めた幕を引き廻した中に、四本の竹竿たけざおてて、上にとまいてある。地面には荒筵あらむしろ二枚の上に、新しい畳二枚を裏がえしに敷き、それを白木綿でおおい、更に毛氈もうせん一枚をかさねてある。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何の意か怖れて走る〉と呼ばわると、虎答えて曰く〈汝毛ちて森々たり、諸畜中に下極まる、猪汝速やかに去るべし、糞臭堪うべからず〉、猪自ら誇りて曰う〈摩竭鴦二国、我汝と共に闘うと聞く