稗史はいし)” の例文
世の伝うるところの賽児の事既にはなはだ奇、修飾をらずして、一部稗史はいしたり。女仙外史の作者のりてもって筆墨をするもまたむべなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一歩進んで、八郎のこんたんが幕府の力で浪士を集め機を見て討幕に逆用するにあったという、稗史はいしの臆測を是としてみてもかまわない。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
土地の口碑こうひ、伝うる処に因れば、総曲輪のかのえのきは、稗史はいしが語る、佐々成政さっさなりまさがその愛妾あいしょう、早百合を枝に懸けて惨殺した、三百年の老樹おいきの由。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここまでくるとやっと馴染なじみがある。無官の太夫なら敦盛あつもりという美しい平家の若武者で、大概の人が芝居や浄るりや、あるいは稗史はいしでよく知っている。
身に帯びるそれもく軽い細身ほそみの大小よりほかには物の役に立つべき武器とては一ツもなく、日頃身に代えてもと秘蔵するのは古今の淫書いんしょ稗史はいし、小説
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ベーリング・グールドの『中世志怪』六章や、クラウストンの『俗談および稗史はいしの移動変遷』二巻一六六頁以下に詳論あり。今大要を受け売りと出掛ける。
今から四十年前に小説復刻の元祖たる南伝馬町てんまちょう稗史はいし出版社に続いて馬琴の『俊寛僧都しゅんかんそうず島物語』や風来ふうらいの『六々部集』を覆刻したので読書界に知られた印刷所であった。
私はこれだけの材料が、なにゆえ今日まで稗史はいし小説家の注意をかなかったかを不思議に思った。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
馬琴の悲劇は、モラルの本質がそういうものであったから、支那文学の影響も稗史はいし小説、綺談等からうけ荒唐無稽的となり文学の一面で当時の卑俗さと結びついています。
茶呑咄ちゃのみばなしに残したる。炭売多助たすけが一代記を。拙作せっさくながら枝炭えだずみの。枝葉をそえ脱稿やきあげしも、原来もとより落語なるをもって。小説稗史はいし比較くらべなば。所謂いわゆる雪と炭俵。弁舌くちは飾れど実の薄かるも。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これをもってはただ平仮名を用うることを主張す。およそ平仮名の通常たる、招牌しょうはい暖簾のれん稟帖ひんちょう稗史はいしたぐい、観てみるべし。すなわち余が舎密の階ものわりのはしごを訳述して同志にはかるゆえんなり。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
面白いものを小説の稗史はいしのと人が言うけれど、あれは本来こしらえもの、大人君子の興味に値するほどのものではないが、勝のおやじの自叙伝に至ると、真実を素裸すっぱだかに書いて、そうして
伝記的事実談が人心に印記するの深きは繰り返して勉強したる学校の教科書よりも、かへつて幼時一読せし稗史はいし小説の永く忘られざるにても知るべし。徳育はこの秘訣を知らざるべからず。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
当時の兵略上一番重要な足場だったらしく、将門は部将に命じて、軍用に充てられたおびただしい金銀珠玉を、その城中にかくしたという事が、玉置家の古記録や、一部の稗史はいしなどに伝えられて居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
託す相手だと認めたという、むろん絶対に無いことではないだろう、現実には稗史はいし小説などの及びもつかない偶然がいくらもあるものだから、しかし、小出のようにそうあたまから信じこむのも不用心すぎる
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
金字きんじ見ゆるダンヌンチオの稗史はいしとざ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
得るは稗史はいし野乗やじよう核子かくしなれどここに築地の土佐堀は小鯔いなの多く捕れる処ゆゑ一昨夜も雨上りに北鞘町の大工喜三郎が築地橋の側の処にて漁上とりあげたのは大鯔にて直ぐに寿美屋の料理番が七十五銭に買求め昨朝庖丁した処腹の中から○之助様ふでよりと記した上封うわふうじが出たといふがモウ一字知れたら艶原稿の続きものにでもなりさうな話。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勇の身上はただその気性と胆にあったと、稗史はいしはすべて説きあかすが、気性の胆なら「非常の士」二百五十名、みんな一かどの者ばかりだった。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
小説といい、稗史はいしといい、戯曲といい、寓言ぐうげんというものすなわこれなり。作者の心おもえらく、奇を極め妙を極むと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
博文館が帝国文庫という総称の下に江戸時代の稗史はいし小説の復刻をなし始めたのはその頃からであろう。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大岡様も伝説稗史はいしに従えばなかなかにやったものらしい。
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「違う違う、稗史はいしだそうだ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
得るは稗史はいし野乗やじょう核子かくしなれど茲に築地の土佐堀は小鯔いなの多く捕れる処ゆゑ一昨夜も雨上りに北鞘町の大工喜三郎が築地橋の側の処にて漁上とりあげたのは大鯔にて直ぐに寿美屋の料理番が七十五銭に買求め昨朝庖丁した処腹の中から○之助様ふでよりと記した上封うわふうじが出たといふがモウ一字知れたら艶原稿の続きものにでもなりさうな話。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
俳句なぞは薄生意気な不良老年の玩物おもちやだと思つて居り、小説稗史はいしなどを読むことは罪悪の如く考へて居り、徒然草をさへ、余り良いものぢや無い、と評したといふ程だから
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その文化の初め数年にわたりてはもっぱら馬琴ばきんその他の著作家の稗史はいし小説類の挿絵を描き、これによつて錦絵摺物等の板下絵はんしたえにおいてはかつて試みざりし人物山水等を描くの便宜を得
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先生ごく真面目な男なので、俳句なぞは薄生意気うすなまいきな不良老年の玩物おもちゃだと思っており、小説稗史はいしなどを読むことは罪悪の如く考えており、徒然草つれづれぐさをさえ、余り良いものじゃない
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
狂言稗史はいしの作者しばしば男女奇縁を結ぶの仲立に夕立を降らしむ。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
真に稗史はいしの好題目たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)