神保町じんぼうちょう)” の例文
神保町じんぼうちょうのとあるカフェーの裏二階、夜分だけ定連を借り切って、何時いつの間にやら出来たのが、この有名なる「無名倶楽部くらぶ」です。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
神保町じんぼうちょうから小川町おがわまちの方へ行く途中で荷馬車のまわりに人だかりがしていた。馬が倒れたのを今引起こしたところであるらしい。
断片(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
年五十九である。四女とめが家を継いだ。今東京神田裏神保町じんぼうちょうに住んで、琴の師匠をしている平井松野まつのさんがこのとめである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは神保町じんぼうちょう近くの学生町の、飲食店のゴタゴタと軒を並べた、曲りくねった細い抜け裏の様な所にある、一軒のみすぼらしいレストランで
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四月の新学期からまた学校へ通っていましたが、ある日探したい本があって神保町じんぼうちょうの東京堂までいったことがありました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
その当時の内神田はこんにちの姿とまったく相違して、神保町じんぼうちょう猿楽町さるがくちょう、小川町のあたりはすべて大小の武家屋敷で、町屋まちやは一軒もなかったのである。
錦子が神保町じんぼうちょうへおりてくると、広い間口をもった宿屋の表二階一ぱいに、書生たちが重なって町を見おろしていた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
電車はその時神保町じんぼうちょうの通りを走っていたのだから、無論むろん海の景色なぞが映る道理はない。が、外の往来のいて見える上に、浪の動くのが浮き上っている。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神保町じんぼうちょうの停留場で我々は降りた。その辺の迷路にも似た小路こじを、あちこちと二三丁歩いて、ある建物の前に来た時に、彼は立止って突然いきなりその呼鈴ベルを押した。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これより先き数年、今は電車通りの裏となってる神保町じんぼうちょう筋の今川小路いまがわこうじに武蔵屋という絵双紙屋があった。その頃は専門の雑誌屋がなくて絵双紙屋で雑誌を売っていた。
そこここと尋ねあぐんで、やがてぶらぶら裏神保町じんぼうちょうまで歩いて行くと、軒を並べた本屋町が彼の眼前めのまえひらけた。あらゆる種類の書籍が客の眼を引くように飾ってある。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
表に裏神保町じんぼうちょうの宿屋の名と平岡常次郎ひらおかつねじろうという差出人の姓名が、表と同じ乱暴さ加減で書いてある。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「皆さん、次は神保町じんぼうちょうでございます。お降りのお方、お乗り換えのお方は、お支度を願います」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一緒に外へ出て支那料理を食べたり、昔し錦町にしきちょうに下宿していた時分、神保町じんぼうちょうにいた画家で俳人である峰岸と一緒に、よく行ったことのある色物の寄席よせへ入ってみたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある夜中井林急に金盥かなだらいたたき火事と呼んで走り廻ったので樫田氏の家内大騒ぎし、まず重次郎氏当時幼少なるを表神保町じんぼうちょう通りへ立ち退かせたが、一向火の気がないので安心したものの
両側の夜見世よみせのぞきながら、文三がブラブラと神保町じんぼうちょうの通りを通行した頃には、胸のモヤクヤも漸く絶え絶えに成ッて、どうやら酒を飲んだらしく思われて、昇にはずかしめられた事も忘れ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は、防毒マスクをスッポリ被ると、すこしでも兄達の住んでいる方へ近づこうと、風下である危険を侵し、避難の市民群とは反対に、神保町じんぼうちょうから、九段くだんを目がけて、駈け出していった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある人は、電車で神田かんだ神保町じんぼうちょうのとおりを走っているところへ、がたがたと来て、電車はどかんととまる、びっくりしてとびりると同時に、片がわの雑貨店の洋館がずしんと目のまえにたおれる
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
一時ごろから晴れて好い天気になったので、いちの下宿にいる軍人の処へ往って、そこで夕飯に酒を飲んで、八時ごろになって帰りかけたが、久しぶりで神保町じんぼうちょうの本屋をひやかしてみる気になり
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
真赤にいきり立って、ドンドンと神保町じんぼうちょうの方へ歩いて行ってしまった。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私は洋服を見たり、賑やかな神保町じんぼうちょうの街通りを見たりして、仲々考えがさだまらなかった。やっとの思いで母を通りに待たせて、そのひとの家へ行ってみる。路地をはいると魚を焼く匂いがしていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
手を切りそうな五円札を一重ねに折りかえして銅貨と一緒に財布へ押しこんだのをふところに入れて、神保町じんぼうちょうから小川町おがわまちをしばらくあちこち歩いていた。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから馬場を通り抜け、九段を下りて神保町じんぼうちょうをブラブラし、時刻は最う八時を過ぎて腹の虫がグウグウ鳴って来たが、なかなかそこらの牛肉屋へ入ろうといわない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これが、故青年が神保町じんぼうちょうの通りで、ジーナの姿を発見して打ったという、例の電報のことであろう。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
末造は又どこを当ともなしに、淡路町あわじちょうから神保町じんぼうちょうへ、何か急な用事でもありそうな様子をして歩いて行く。今川小路の少し手前に御茶漬と云う看板を出した家がその頃あった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
本郷に移り下谷に移り、下谷御徒町おかちまちへ移り、芝高輪たかなわへ移り、神田かんだ神保町じんぼうちょうに行き、淡路町あわじちょうになった。其処で父君を失ったので、その秋には悲しみの残る家を離れ本郷菊坂町きくざかちょうに住居した。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして猿楽町辺をぶらぶら歩きながら、二三軒の旅館を訪ねてみたが、子供に興味のあるはずもないので、古本屋をそっちこっちのぞいてから、神保町じんぼうちょうの盛り場へ出てお茶をんで帰って来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は猿楽町さるがくちょうから神保町じんぼうちょうの通りへ出て、小川町おがわまちの方へ曲りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神保町じんぼうちょう交差点で珍しい乗り物を見た。一種の三輪自転車であるが、普通の三輪車と反対に二輪が前方にあってその上に椅子形いすがたの座席が乗っかっている。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの神保町じんぼうちょう人混ひとごみの中で見たジーナの姿だったのです……それから一週間ばかりたって、門前にたたずんでいた、あの恨めしそうなスパセニアの顔だったのです……そうだ、もうあの時は
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
これは純一が神保町じんぼうちょうの停留わきで、ふいと見附けて買ったのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それにしても神保町じんぼうちょうの夜の露店の照明の下に背を並べている円本えんぽんなどを見る感じはまずバナナや靴下くつしたのはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはない。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その一例として去る六月十九日の晩、神保町じんぼうちょうの停留所近くで八時ごろから数十分間巣鴨すがも三田みた間を往復する電車について行なった観測の結果を次に掲げてみよう。
電車の混雑について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こんな事を考えながらぶらぶら神保町じんぼうちょうの通りを歩いたのであった。(大正十一年八月、解放)
神田を散歩して (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
神保町じんぼうちょうから一ツ橋まで来て見ると気象台も大部分は焼けたらしいが官舎が不思議に残っているのが石垣越しに見える。橋に火がついて燃えているので巡査が張番していて人を通さない。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
木枯らしの夜おそく神保町じんぼうちょうを歩いていたら、版画と額縁を並べた露店の片すみに立てかけた一枚の彩色石版クロモリソグラフが目についた。青衣の西洋少女が合掌して上目に聖母像を見守る半身像である。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)