燈籠どうろう)” の例文
新字:灯籠
と、ヒョイと見ると、その庭におり立って、手桶の水を柄杓ひしゃくで、下草や石燈籠どうろうの根に、ザブリザブリとかけてまわっている人があるんです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
浜御所の廻廊すべての燈籠どうろうに灯を入れること。そして、仮粧坂けわいざかや名越の傾城けいせい白拍子しらびょうしなどを、たくさんに呼びあつめろ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある者は車の上から大袈裟おおげさに触れ歩いた。ある者は町の内緒話を文字や絵に書き現わした透かし燈籠どうろうを、方々へもち回った。
残りの有金ありがねで昔のゆめを追っているうちに、時世じせいはぐんぐんかわり、廻り燈籠どうろうのように世の中は走った。人間自然淘汰とうたで佐兵衛さんも物故した。
廻り燈籠どうろうの人物の影が、横に廻らず上下にまわったらあたかも予が見た所に同じ。しかし影でなくて朦朧もうろうながら二人の身も衣装もそれぞれ色彩を具えた。
こけのついた石燈籠どうろうだの、それぞれが尺で計ったようにきっちりと、いやによそよそしく配置してあって、木の枝ひとつ折っても「こらっ」とどなられる。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小夜子の家でも、川沿いの部屋の窓近くに、幾株かの若い柳を植えたり、玄関先きの植込みのうえに変わった型の電気燈籠どうろうを掲げたりして、座敷はいつもにぎやかであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんだか、にわかに拙者のまわりで、廻り燈籠どうろうを廻して見せられているようで、とんと面食った気持だが、そう言われると、そうありそうなことじゃ。それで、駒井氏は洲崎を
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ヨークシャイヤの一生の間のいろいろなおそろしい記憶きおくが、まるきりまわ燈籠どうろうのように、明るくなったり暗くなったり、頭の中を過ぎて行く。さまざまな恐ろしい物音を聞く。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この二つが、まわり燈籠どうろうのように僕の心の目にかわるがわる映って来るのである。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
そこは十四畳ばかりの座敷で、南側は古風に刈り込んだ松の木があったり、雪見燈籠どうろうがあったり、泉水があったりする庭を見晴している。この座敷にもう二十人以上の客が詰め掛けている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
云々の大文字をお祭の大燈籠どうろう位の箱に書いて、下に禿頭と大丸髷まるまげたぬきと手を引合ってダンスをやっている絵が描いてあるかと思うと、家伝「禿頭病専門名薬」という広告が何かの新聞に出ていた。
むすめちた団扇うちわながに、呉絽ごろおびをかけると、まわ燈籠どうろうよりもはやく、きりりとまわったただずまい、器用きようおびからして、さてもう一まわり、ゆるりとまわった爪先つまさきえんとどめたその刹那せつな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
蘇苔こけ付きの石燈籠どうろうに灯がはいっていて、それがときおりまたたくのが見えた。油が少なくなったのであろう。
すでに儀仗ぎじょう旗手きしゅもできあがり、献納燈籠どうろうを入れた螺鈿らでんの塗り箱をかつぐ仕丁じちょうの役割もすべてきまる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浴衣ゆかた行水ぎょうずい終日いちにちつかれを洗濯して、ぶらぶら歩きの目的は活動もなくカフェもない、舞台装置のひながたと、絵でいった芝居見たままの、切組み燈籠どうろうが人を寄せた。
「廻るわ、廻るわ、この家屋敷がグルグル廻る、廻り燈籠どうろうのように廻らあ、廻らあ」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いろいろなことがまるでまはり燈籠どうろうのやうに見えて来ました。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
母屋からの小径に当たる石燈籠どうろうのかげに隠れて先頭せんとうを待った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しはらく乾いていたために、地面はもう白く掩われ、庭の樹木や石燈籠どうろうなども白くなり、境の土塀の陰も、雪の反映で、暗いままに寒ざむと青ずんでみえた。
廻り燈籠どうろうや、ほおずきやが夜の色どりで、娘たちが宵暗よいやみにくっきりと浮いてにおった。
客殿に客のある夜は、燈籠どうろうに灯が入る——こよいは珠をつらねたような灯があった。——しかし廊に人影の往き来もなく、灯のあるため、かえって、ふだんの夜より寂しくさえ思われた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで演劇の廻り燈籠どうろうを見せられるように目がくらんでしまいました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「うん。まるでまわり燈籠どうろうのようだねえ」
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
亭主の長次が云った言葉に暗示をうけて、帳場から、廻り燈籠どうろうのように通るおんなを眺めていた。客にれられて、屋形船やかたからここへ来る妓には、およそ、江戸中のすいが抜かれているはずである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今——その十万坪あまりの埋地うめちの闇はひとつのまわ燈籠どうろうになった、三ツのつづらを心棒に、あまたの覆面や怪しげな編笠や、宅助や新吉や、そしてなお幾人もの影が、グルグル廻っているのだから……
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この呉用も宋江も、もちろん、大臣の近侍に姿を変えており、あたりの武官、警固の兵、献納燈籠どうろうをかついでいる仕丁じちょう、小者の端まで、すべてお互い常に見ている顔ばかりだったのはいうまでもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)