淡路あわじ)” の例文
阿波は由来なぞの国だ。金があって武力が精鋭、そして、秘密を包むに都合のいい国、一朝淡路あわじを足がかりとして大阪をはかり、京へ根を
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも朝日がさすたんびに、その木のかげ淡路あわじの島までとどき、夕日ゆうひが当たると、河内かわち高安山たかやすやまよりももっと上まで影がさしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大原君、サアこの菓物くだものを取り給え。名物揃いだ。枇杷びわの方は有名な房州南無谷なむやの白枇杷だし、だいだいのようなのは淡路あわじ鳴門蜜柑なるとみかんだ。好きな方を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そしていつも淡路あわじほうへ行ってあそんでいることがおおいので、夢野ゆめの牝鹿めじかはさびしがって、淡路あわじ牝鹿めじかをうらんでいました。
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「分かってようございました。エ、あのひとですか、たしか淡路あわじの人だと云います。飯屋めしやをして、大分儲けると云うことです」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これ以外にやや珍しい一例は、淡路あわじでワカトと称する正月八日の晴の食物で、是は米と大豆とを交ぜて炒ったものを、挽いて粉にして神にも供えている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
このほか名高い瀬戸や普通の人の知らぬ瀬戸で潮流の早いところは沢山ありますが、しかし、何といっても阿波あわ淡路あわじの間の鳴門なるとが一番著しいものでしょう。
瀬戸内海の潮と潮流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
恋しい紫の女王にょおうがいるはずでいてその人の影すらもない。ただ目の前にあるのは淡路あわじの島であった。「あわとはるかに見し月の」などと源氏は口ずさんでいた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼はやがて自分のやる仕出し魚屋について語り、淡路あわじ屋の旦那について語り、魚政の親方について語った。
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここで近畿きんき地方というのは便宜上、京都や大阪を中心に山城やましろ大和やまと河内かわち摂津せっつ和泉いずみ淡路あわじ紀伊きい伊賀いが伊勢いせ志摩しま近江おうみの諸国を包むことと致しましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雉子きじ町を通り、淡路あわじ町を通り、駿河台へ出て御茶ノ水本郷を抜けて上野へ出、鶯谷うぐいすだにへ差しかかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
西部諸藩のなかでも、内乱前の江戸派主流で維新後藩内京都派のために国を追われた淡路あわじの藩主稲田邦稙いなだくにたねのシズナイ村、以上はすべて「模範村」として有名になった村々である。
剣山つるぎやま阿波あわより出でたるがゆえに、阿波第一の山名を取り、大鳴門は淡路あわじより出でたるゆえ、鳴門に取り、西の海は西国に出でたるゆえ、かの名あるがごとく、みな高山、名川
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
軍艦淡路あわじ——といえば、みなさんも、すぐ、あああの最新式の戦艦のことかとおっしゃるでしょう。そうです、軍艦淡路は、帝国海軍が世界にほこる実にりっぱな戦艦であります。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かように言い終つて結婚をなさつて御子の淡路あわじのホノサワケの島をお生みになりました。次に伊豫いよ二名ふたなの島(四國)をおみになりました。この島は一つにかおが四つあります。
それがもとで川上は淡路あわじ洲本すもと旗亭きてい呻吟しんぎんする身となってしまった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あれが淡路あわじですぜ。よくは見えませんでしょうがね」
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
淡路あわじ福良ふくら港には、ここ十日ばかりの間に、大船、小船が何百そうとなく、結集されていた。——海は五月の色の深さ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐渡さど熊野くまの淡路あわじなどに、ホドと最も近いヒドコという語があって、すべて今風の塗りベッツヒを意味している。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
上利別かみとしべつのマッチ製軸所せいじくしょ支配人久禰田くねだ孫兵衛まごべえ君に面会。もと小学教師をした淡路あわじの人、真面目な若者である。二里の余もある上利別から始終しじゅう関翁の話を聞きに来るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雪の降る日、九段坂の途中で、おさんが足駄あしだの鼻緒を切って困っていた。作次は自分の手拭を裂いて鼻緒をすげてやり、それから淡路あわじ町の鳥屋で、いっしょにめしを喰べた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると牝鹿めじかは、ふとおもいついて、これはちょうどいいおりだから、こういうとき牡鹿おじかをおどかして、もうこののちうみわたって淡路あわじへ行くことを、おもまらせてやろうとかんがえて
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
淡路あわじ島三原郡津井つい村十二代世襲の庄屋で田畠四十町歩、山林七十余町歩、藩の「支配外」待遇。備中連島の三宅定太郎とよく似ている。そうした地主的存在の半面で、彼は大規模な土木企業家だった。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
それが、かねてわしの狙っていた日本の武力を、根こそぎ壊すのに役立つどころか、今迄に軍艦淡路あわじと十数機の飛行機を壊しただけで、もうこっちがあべこべにやっつけられてしまった。ああ残念だ。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
池田、筒井の兵力も一部の参加であったし、因幡いなばの宮部、淡路あわじの仙石なども、特に徴していなかったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども牡鹿おじか摂津せっつ牝鹿めじかよりも、淡路あわじ牝鹿めじかほうを、よけいいていました。
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
淡路あわじを占領して、大坂と中国との海上を安穏ならしめ、その須本城すのもとじょうに仙石権兵衛を入れて、四国の抑えを命じると、また直ちに、官兵衛を連れて、姫路へ帰って来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淡路あわじさんのお客さまです。月に、二度か、三度ぐらいは、きっと、見えているようですよ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淡路あわじの沖、瀬戸五十町ほどを、波間もみえぬほど、大小数千そうのふねが、一時に、ひがしの一方向へ白波はくはを噛んでゆくさまは、古記録の誇張をしても、なお、およばないほどだったろう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)