まし)” の例文
まして市郎は、最初はじめからのお葉という女を意中はおろか、眼中にも置いて居なかったのであるが、今日の一件に出逢っていささか意外の感をした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ながめてゐるが此身のくすりで有ぞかしと言を忠兵衞押返おしかへは若旦那のお言葉ともおぼえずおにはと雖も廣くもあらずましてや書物にこゝろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
されども此処にきまりありて、我が薄井の家には昔しより他郷の人と縁を組まず、ましてや如何に学問は長じ給ふとも、桂木様は何者の子何者の種とも知らぬを
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ましてや従来我が植物にてられし漢名にはあたっていなきものすこぶる多ければかたがたそれを排斥すべし
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
浮世の形を写すさえ容易なことではなきものをましてや其の意をや。浮世の形のみを写して其意を写さざるものは下手の作なり。写して意形を全備するものは上手の作なり。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二人とも這々ほう/\ていにて荷拵にごしらえをなし、暇乞いとまごいもそこ/\に越後屋方を逃出しましたが、宇都宮明神の後道うしろみちにかゝりますと、昼さえ暗き八幡山、まして真夜中の事でございますから
千束ちづかなす我が文は讀みも了らで捨てやられ、さそふ秋風に桐一葉の哀れを殘さざらんも知れず。ましてや、あでやかなる彼れがかんばせは、浮きたる色をづる世の中に、そも幾その人を惱しけん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
まして飛騨山中の冬の夜は、凍えるばかりに寒かった。霧に似たる細雨こさめは隙間もなく瀟々しとしと降頻ふりしきって、濡れたる手足は麻痺しびれるように感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つま芳之助よしのすけおもふかよしや芳之助よしのすけつといふともれある以上いじやうよめにすること毛頭もうとうならぬけがらはしゝ運平うんぺいおもしてもむねくなりましてやそれがむすめ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ましてや大金を出しまして連れて来たお瀧が、松五郎の膝へしなだれ寄って亭主の事を悪口あっこうを云うのだから腹の立つのも道理、茂之助は無茶苦茶に斬込んで来ましたから二人は驚き
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文三が某校へ入舎してからは相逢あいあう事すらまれなれば、ましひとつに居た事は半日もなし。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
内記樣御聞込おきゝこみありてあらかじめ御悟おさとりなされたるていに御座候其上ばん建部たてべの兩人が事は御前のなされ方宜しからざる故と仰せられまして此事はかるからざる儀故早速さつそく御用番へ進達しんたつ成るゝ間然樣さやう心得よとの仰せに候と申しければ主税之助は是れを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ましてお杉はここに居ない。わが目前の敵は重太郎一人いちにんである。たとい這奴こいつ山𤢖やまわろの同類にした所で、一人ひとりと一人との勝負ならば多寡たかの知れたものである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いけ年をつかまつってもとかく人真似まねめられぬもの、ましてや小供といううちにもお勢は根生ねおい軽躁者おいそれものなれば尚更なおさら倐忽たちまちその娘に薫陶かぶれて、起居挙動たちいふるまいから物の言いざままでそれに似せ、急に三味線しゃみせん擲却ほうりだして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
相續爲る御身ゆゑ學問にこり夜歩行よあるき一ツなさらざるもさうなくてはかなはねどとは言へ善惡二つながらおあんなさるは親御のつねましてや外にお子とてなき和君あなたが餘り温順おとなしすぎし病氣でも出はせぬかとお案じなされて玉くしげたに親樣おやさまが此忠兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)