沁々しみ/″\)” の例文
留守宅ではお篠が夫が警察に留られて三日も帰って来ない所在なさを沁々しみ/″\味わいながら、しょんぼりとしていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「世の中が惡くなつた」とかこちながら、浮世の一隅に、氣の利いた口はききながら、心寂しがつてゐる人々の世の中が「戀の日」一卷の中に沁々しみ/″\と味はれる。
しかし今宵の私の心のムウドに沁々しみ/″\と親みをはこぶものは汝の死である。汝の埋められた露西亜ロシアの遠い片隅の一寒村の墓地の光景は今もありありと私の前に浮ぶ。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
自分は、彼の斯んなに沁々しみ/″\とした様子を見たこともない。何となく自分もしんみりとしてしまつた。
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
でも叔母のお常さんに沁々しみ/″\と意見されて、近頂建具屋の金次さんと一緒になる氣になつてゐたやうで、本人に言はせると——金さんは男つ振りは好いけれど働きがないから
あやふかつた。危かつた。——婆やの手伝などをしてゐる面窶おもやつれした顔を今更見てゐると、娘がまだ/\飼兎かひうさぎか何かとさう違ひのないほど、無力無抵抗なことを沁々しみ/″\と感じるのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
とはへ、かれ惡意あくいるのではい。と、ドクトルはさらまた沁々しみ/″\おもふたのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
サン はて、沁々しみ/″\かんじようわい、おれ隨分ずゐぶん評判ひゃうばんをんなたらしぢゃにって。
またその蒼々あを/\としたおほきなうみ無事ぶじにわたりつて、をかからふりかへつてそのうみ沁々しみ/″\ながめる、あの氣持きもちつたら……あのときばかりは何時いつにかゐなくなつてゐる友達ともだち親族みうちもわすれて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
此日このひ本線ほんせんがつして仙台せんだいをすぐるころから、まちはもとより、すゑの一軒家けんやふもと孤屋ひとつやのき背戸せどに、かき今年ことしたけ真青まつさをなのに、五しき短冊たんざく、七いろいとむすんでけたのを沁々しみ/″\ゆかしく
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
果物を売り歩く女の呼声が湿気しつきのない晴れ渡つた炎天のもとに、長崎は日本からも遠く、支那からも遠く、切支丹の本国からも遠い/\処である事を、沁々しみ/″\と旅客の心に感じさせるやうに響く。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてまだ今もその苦難の爲めに、ともすれば暗くなり過ぎるその心はそれ以上に濃い不可思議なものゝ影は要らないのであつた。そこで私は何も云はずに心の中で沁々しみ/″\と考へたのであつた。
さうして沁々しみ/″\した心持になつて次の投書の封を切つた。
歌のいろ/\ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
斯う沁々しみ/″\新三郎に言はれると、平次も利助もぢ入つて言葉もありません。
先生せんせい奥樣おくさまと、夜晝よるひる病床ベツドそばはなれませんでした。そしてくだいて看護かんごをなされました。先生せんせいは「自分じぶんにかはれるものならばよろこんでかはつてやりたい」と沁々しみ/″\、そのとき、わたしにはれました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「どんなに酷く暴れてゐる最中でも隆さんが入ると恰で猫のやうにおとなしく変つて仕舞ふんだもの。だからお前さんの阿父さんが、彼奴はそらつかひだ、なんて疑つたのも無理はないね。」と沁々しみ/″\と云つた。
白明 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ものしづかで、沁々しみ/″\さびしい。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘三郎が戻つて來ると、平次はそれを一と間に呼んで、何やら沁々しみ/″\話してをりましたが、やがてもう一度裏へ出て、崖の上から下、井戸端のあたりを、提灯をつけて念入りに調べ始めました。
冴返さえかへ沁々しみ/″\とほつきがひ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暫らくすると、動亂する氣持を整理して、お幾は沁々しみ/″\と言ふのです。
平次は沁々しみ/″\と言ふのでした。