横鬢よこびん)” の例文
良平はそう云うか云わない内に、ぴしゃり左の横鬢よこびんを打たれた。が、打たれたと思った時にはもうまた相手を打ち返していた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
息せき切ってとんで来たアランの真っ蒼な顔がそこにあえいで、今しも烈しい一撃をウェンデルの横鬢よこびんへくれたところであった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
女の子の声が、かねをきるように竜之助のみみもとに響く途端に、竜之助の横鬢よこびんかすめてヒヤリと落ちて来た狂人の刀。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こんどは他の者が代わって立とうとすると、また、その者の横鬢よこびんのところに切石が当たったので、もう誰も鉄砲を取りに行こうという者もありません。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女の方がせいが低いので、浜田はあたかも髪の毛のにおいぎでもするように、頭をぐっと斜めにかしげて、耳のあたりを綺羅子の横鬢よこびんに喰っ着けている。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから、この虎は、いい気になって、ややもすると、横鬢よこびんの盃形の禿について、肩をいからすのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨の中で打合うちあいが始まり、大の男が女をとらえて蹂躙ふみにじります様子が烈しいゆえ、見兼て丹治殿が突然いきなり女を連れて逃げようとする仁助の横鬢よこびんつ、たれて仁助はよろける途端
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
腰に大小を差しているし、総髪にきゅっとひき詰めてむすんだ髪の横鬢よこびんに面擦れの痕がある。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唄声を背後うしろに、やがて守人は宵闇よいやみの中へさまよい出た。ひやりと横鬢よこびんをかすめる水気に、ぱっとじやを差し掛けて、刀の柄を袖でかばった篁守人、水たまりを避けて歩き出した。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今しがた剩錢つりせんにとつた永樂錢えいらくせんが一枚、右手の食指と拇指ぼしの間に立てゝ、ろくに狙ひも定めずピユウと投げると、手練は恐ろしいもので、身を投げようとする男の横鬢よこびんをハツと打ちます。
片側かたがはのまばらがき一重ひとへに、ごしや/\と立亂たちみだれ、あるひけ、あるひかたむき、あるひくづれた石塔せきたふの、横鬢よこびんおもところへ、胡粉ごふんしろく、さま/″\な符號ふがうがつけてある。卵塔場らんたふば移轉いてん準備じゆんびらしい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女にしても見まほしいあぎとから横鬢よこびんへかけて、心持ち青々と苦味走ったところなぞ、熨斗目のしめ麻裃あさがみしもを着せたなら天晴れ何万石の若殿様にも見えるであろう。俺ほどの男ぶりに満月が惚れぬ筈はない。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それと同時に、かれの利腕ききうでを取ろうとした一人の手先はあっと云って倒れた。松蔵はふところに呑んでいた短刀をぬいて、相手の横鬢よこびんを斬り払ったのであった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分は若い時分から老成ぶる癖があったから、人一倍早く年を取る傾向があるのだ。———要は下膨しもぶくれの頬を見せているお久の横鬢よこびんと、舞台の小春とを等分に眺めた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時はもう何時の間にか、兄の癇癖かんぺきの強いことも忘れてしまつたのでございます。が、まだ挙げた手を下さない中に、兄はわたしの横鬢よこびんへぴしやりと平手を飛ばせました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
横鬢よこびんへかけられた痰を拭いて、よろりとまた立ち上がった時には、さすがに生色がない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでさらに繁次は逆上し、とびかかって馬乗りになると、こぶしで相手の横鬢よこびんを殴った。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今しがた剰銭つりせんにとった永楽銭が一枚、右手の食指しょくし拇指ぼしの間に立てて、ろくに狙いも定めずピュウと投げると、手練は恐ろしいもので、身を投げようとする男の横鬢よこびんをハッと打ちます。
姉小路少将は、持っていた中啓ちゅうけいで受け止めたけれども、それは何のききめもない、横鬢よこびんを一太刀なぐられて血は満面にほとばしる。二の太刀は胸を横に、充分にやられた。それでも豪気の少将は屈しなかった。
横鬢よこびんのところが、こう禿げあがっていて、分別顔。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これがこの女の癖だと見えて、さっき浜田としたように、その横鬢よこびんは私の頬へ触れていました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのとがり肩やすねの長さでも察しられ、ボロの漁着りょうぎの胸もとからは、青ずんだひょう刺青いれずみが見え、その凄味を消すよりは、むしろ増すかのように、頭上斜めにかぶった刺子頭巾さしこずきん横鬢よこびん
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも一人は眉間みけんのあたりを、三右衛門は左の横鬢よこびんを紫色にあがらせたのである。治修はこの二人を召し、神妙の至りと云う褒美ほうびを与えた。それから「どうじゃ、痛むか?」と尋ねた。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わっとみんなが笑いだした時、吉公の横鬢よこびんがぴしゃりと鳴った。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、生真面目きまじめになってのぞきこむと、龍平は、わざとらしく横鬢よこびんをかいて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
繁のふり上げた拳が、ぐわんと、安の横鬢よこびんにひびいた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、駕のとともに、周馬の横鬢よこびんを切ってかすめる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)