ふけ)” の例文
次の年の夏、韓国にあるわが子寛の重き病わづらふよし聞きていたく打歎きしが、十一月二日夜ふけて門叩くを誰かと問へば、寛の声なりけり。
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
早めて歩行あゆめども夏の夜のふけやすく早五時過いつゝすぎとも成し頃名に聞えたる坂東太郎の川波かはなみ音高く岸邊きしべそよあしかや人丈ひとたけよりも高々と生茂おひしげいとながつゝみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母君ふけるまでいさめたまふ事多し、不幸の子にならじとはつねの願ひながら、折ふし御心みこころにかなひ難きふしのあるこそかなし。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
家付の我儘娘、重二郎は学問にって居りますから、ふすまを隔てゝふけるまで書見をいたします。お照は夜着よぎかぶって向うを向いて寝てしまいます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから例の「待つ宵にふけ行く鐘の声聞けば、飽かぬ別れの鳥は物かは」にちなんで、『新増犬筑波』に
永代橋の上にはまだ電車が通つてゐるので夜はさほどふけ渡つたのでもないらしいが、河岸通は倉庫の入口に薄暗い灯の見えるばかり、人の行来ゆききは全く杜絶えてゐるので
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夜がふければ更るほどお種の眼はえて来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜のふけから程なくあかときに続くのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふける夜や舟のせききく橋の霜 雩木
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
都会の夏のよるふけ——
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
借て手傳てつだはせしにふけまゝ其夜そのよは下女事私し方へ泊り翌朝よくてうきやく給仕きふじなどを仕舞て立歸り候處右の騷動さうどうゆゑ大いに驚き候由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いきたる母にもの云う如く袖を絞って泣き伏して居ますのがやゝ暫くの間で、其のうちう日が暮れかゝりましたから霊岸を出て、深川の木場を廻りふけるをまっ永代橋えいたいばしへ掛りました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見廻みまはつひはなしに身がいり大分だいぶんふけたり嘸々さぞ/\草臥くたびれしならん今夜は寛々ゆる/\と休むがよしと漸々盃盞さかづきをさめ女どもに云付て寢床ねどこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
誠におだやかな海上でありましたが、ふけるに従って浪はます/\はげしく、ざぶり/\と舟の中に汐水が入りますのみか、最早小縁こべりれ/\になりまして、今にもくつがえりそうな有様でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)