是程これほど)” の例文
唯あの男は素性が違ふといふだけでせう。それで職業も捨てなければならん、名誉も捨てなければならん——是程これほど残酷な話が有ませうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
知人しりびとひでもすると、あをくなり、あかくなりして、那麼あんな弱者共よわいものどもころすなどと、是程これほどにくむべき罪惡ざいあくいなど、つてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
独逸は当初の予期に反してすこぶる強い。聯合軍に対して是程これほど持ちこたへやうとは誰しも思つてゐなかつた位に強い。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ゆかシカラン人ノ隠ンヲモ見テンズ、サレバ是程これほどノ宝ヤハアルベキ
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あゝ、穢多の悲嘆なげきといふことさへ無くば、是程これほど深く人懐しい思も起らなかつたであらう。是程深く若い生命いのちを惜むといふ気にも成らなかつたであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かれ生活せいくわつ是程これほど餘裕よゆうにすらほこりをかんずるほどに、日曜にちえう以外いぐわい出入ではいりには、いてゐられないものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とも態々わざ/\休暇きうかつて、自分じぶんとも出發しゆつぱつしたのではいか。ふか友情いうじやうによつてゞはいか、親切しんせつなのではいか。しかじつ是程これほど有難迷惑ありがためいわくことまたらうか。降參かうさんだ、眞平まつぴらだ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
宗助そうすけからると、主人しゆじんしよにも俳句はいくにもおほくの興味きようみつてゐた。何時いつ是程これほど知識ちしきあたまなかたくはらるゝかとおもくらゐすべてに心得こゝろえのあるをとこらしくおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だから何となく奥歯に物が挾まつて居るやうで、其晩書いた丑松の手紙にも十分に思つたことが表れない。何故なぜ是程これほどに慕つて居るか、其さへ書けば、他の事はもう書かなくてもむ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
御世話おせわどころか、萬事ばんじ不行屆ふゆきとゞきさぞ御窮屈ごきゆうくつ御座ございましたらう。しか是程これほど御坐おすわりになつても大分だいぶちがひます。わざ/\御出おいでになつただけこと充分じゆうぶん御座ございます」とつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
文芸上の述作を生命とする余にとって是程これほど難有ありがたい事はない、是程心持ちのよい待遇はない、是程名誉な職業はない、成功するか、しないかなどと考えて居られるものじゃない。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし余が徹頭徹尾「満韓ところどころ」のうちで、長塚君の気に入らない一回を以て終始するならば、到底とうてい長塚君の「土」の為に是程これほど言辞を費やす事は出来ない理窟りくつだからである。
事件が是程これほど充実してゐる割に性格が出てゐないのが不思議である。著者はあれほど性格が書いてあれば沢山ぢやないかと云ふかも知れないが、余の云ふ性格は要吉の特色を指すのである。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
著者の選択した部分は、煤煙の骨子でない所から云へば、著者に取つて遺憾かも知れないが、安全と云ふ点から見れば是程これほど安全な章はない。誰が読んだつて差支さしつかへないんだから大丈夫である。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)