扈従こじゅう)” の例文
旧字:扈從
いつのまにか義元の扈従こじゅうたちも皆、大廊下に指をついてうずくまり、義元のことばに胸をうたれて、ひとしく暗然とさし俯向うつむいていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たかのような眼が壁にならんだ六つの眼を見渡すと、白い袋に扈従こじゅうしている二、三の黒い袋の一つが、恐ろしいしわがれ声で口を切った。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五人の旗がしらが扈従こじゅうしていたが、萌黄村濃もえぎむらごの鎧に太刀をいた真名女のすがたは五人の武者をはるかにぬいてみごとだった。
日本婦道記:笄堀 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女大臣の到着かと思ったのに、事実は女大臣は扈従こじゅうのかたちで、そこには思いがけなくもミルキ閣下が傲然と立っていた。
十八時の音楽浴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父中将は浪子が逗子に来たりしより間もなく、大元帥纛下とうか扈従こじゅうして広島におもむき、さらに遠く遼東りょうとうに向かわんとす。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「姉小路様に扈従こじゅうして、江戸へ参られたとあるからは、姉小路様と同じ住居に、すまいしているは知れたこと、では姉小路様のお住居をさがし……」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのため他の諸侯がたから、嫉視しっし反感をうけるようなことがあっては、という賢人の賢慮から、わざと身軽で扈従こじゅうするのがいつもその定例なのでした。
将軍はすでに伏見ふしみに移った。大坂城を去る日、扈従こじゅうの面々が始めて将軍帰東の命をうけた時は皆おどろいて顔色を失い、相顧みて言葉を出すものもない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただし部屋に入る前に、おそらく階段の薄闇うすくらがりで、殿下の服装を脱ぎ棄てて、扈従こじゅうなりに変えたのであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「肩を貸してやれ。」とお駕籠の後に扈従こじゅうしていた神崎式部は、その時、苦笑して勝太郎に言いつけた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
江戸へ出て来てから自分に扈従こじゅうする御徒士の侍どもを見るに、どうもあまり水練の心得はないらしい。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わやわやとした声でかつて軍部に扈従こじゅうして政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。
五月のことば (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それはそこの発跡司の主神で、それは府君に扈従こじゅうして天に往っていて帰ったところであった。
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
当麻真人麿たぎまのまひとまろの妻が夫の旅に出た後詠んだものである。或は伊勢行幸にでも扈従こじゅうして行った夫をしのんだものかも知れない。名張山は伊賀名張郡の山で伊勢へ越ゆる道筋である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
其時将軍の扈従こじゅうの臣の内藤外記げきが支え立てして、御主人おんあるじ役に一応御試み候え、と云った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼らは他人によりかかるという条件でのみ生きている。彼らの名は扈従こじゅうである、そして接続詞のとという字の次にしか書かれることがない。彼らの存在は彼ら自身のものではない。
そしてその責任は自分に無かった。扈従こじゅうして行きついてしまったのだ。帰りはこれはまた、憂愁と疲労のつらなりであった。野山の鳥獣をとらえ、その肉を裂いてった何日かであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それともう一人和田千之助と云う武士が扈従こじゅうして奥州へ落ち行き、津軽為信の内に知る人があったのを頼って密かにその家の客となり、幸運にも捜索の網を逃れて餘命を完うすることが出来た
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
曹操は、その扈従こじゅうや旗本に守られて、陽平関を捨ててきたが、斜谷に近づくと、彼方の嶮は、天をおおうばかりな馬煙をあげている。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「水戸での始終を亀阜荘さまへ御復命ねがいたいのです、このたびの御帰国に扈従こじゅうなさるように伝聞したものですから……」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼らはこの時より半月ほど以前に、塩尻の社家を引き払い、この小諸の牧野家の居城へ、田沼主殿頭に扈従こじゅうして参り、今に滞在しているのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
持統天皇が吉野の離宮に行幸せられた時、扈従こじゅうして行った高市連黒人たけちのむらじくろひとが作った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
料理人のを下働したばたらきと言い、パン屋のを丁稚でっちと言い、従僕のを小使いと言い、水夫のを見習いと言い、兵士のを鼓手と言い、画家のを弟子でしと言い、商人のを小僧と言い、廷臣のを扈従こじゅうと言い
将軍家をはじめ扈従こじゅうの諸侯がたが、今から小石川のご用矢場に回って、御前競射をすることになったので、至急に愛用の弓を屋敷からその小石川のほうへ辰に持参せい、というごじょうなのでした。
左団次に扈従こじゅうしている左升は旧劇物では駄目だが、新しいものだと仲々よくなる、新作物にちょっと巧い俳優であるが、然しこの位の俳優ならばいくらもあるのである。さて俳優にもまた人がない。
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
虹のようなあけらんを架けた中庭の反橋そりばしを越えて来たのである。扈従こじゅうの家臣や小姓たちさえ、まばゆいばかりな衣裳や腰の物を着けていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて千寿様とも朱丸様とも、いよいよお別れでござります……妾の配下てのもの五人ばかりを、扈従こじゅうさせましてあなた様方を、故郷の美濃まで送らせましょう。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小姓一人、供侍五人(みんな孝之助とは、おつかつの腕前だったが)が扈従こじゅうして、まもなく城をでかけた。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
親王、若宮の御ふた方、女官扈従こじゅうを召しつれて、お心もそぞろに、東の御門を出でられ、かしこくも内裏だいりまで徒歩かちでお移りになられた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拙者は十二神オチフルイ貝十郎、ご老中田沼様に扈従こじゅうして、小諸の城中に滞在しおるもの、城方の衆ご存知でござろう。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
書院番から馬廻り扈従こじゅうに役替えになったりして、なにやかや身辺が忙しくなったからである。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
扈従こじゅうの人々。おのおのは御車をおして先へ落ちよ。関羽一人はここにあって路傍の妨げを取り除いたうえ、悠々と、後から参れば——」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と申しまするは我ら九人は、この日頃宮家に扈従こじゅうし参らせ影の形に添うごとく、艱難辛苦仕りました。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おっかぶせるような雷鳴で東湖の答えはわからなかったが、扈従こじゅうの人々がつつましく笑った。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
董卓は早くも車駕を命じ、珠簾しゅれん宝台ほうだいに貂蝉を抱き乗せ、扈従こじゅうの兵馬一万に前後を守らせ、郿塢びうの仙境をさして、揺々ようようと発してしまった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに扈従こじゅうして民弥も来、江戸の同志と久々で逢い、連絡をとっているのであった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のこって話してゆけとも云わない、……側にいる扈従こじゅうたちを見ると、新泉も原もすました顔で、すっかり色が黒くなり、躯つきもたくましくなって、いかにも側近護衛といった身構えである。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
郭汜かくしは先ごろ自分の兵が御車の上や扈従こじゅうの宮人たちの手から、撒き捨てられた財物に気を奪われたことを思い出して、その折
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、扈従こじゅうして来た貝十郎め、才負けして思えらく、冬次郎ほどの人間が、何んの暢気のんきな遊山旅などに、このようなところへ来ることがあろう、田沼様討たんために来たのであろうと。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
扈従こじゅうの少年がゆいつけ草履をぬがせると、雅楽頭はあがって、さっさと奥へとおった。座敷には敷物と火鉢が出ていた。雅楽頭は腰から刀をはずしながら、敷物の上にあぐらをかいて坐った。
たくさんな若駒を、一頭一頭熱心に見て来られたのち、扈従こじゅうの公卿たちの頭を越えて、随身の武者忠盛へ、じきじきに、かれたのである。
といったようなやからであり、そうして例の鬼火のうばに、扈従こじゅうしている眷族であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
扈従こじゅうは矢島弥市のほか、つねに十五歳までの少年しか使わず、十五歳を越えるとすぐにやめさせた。薙刀、剣術などの稽古にはかれらに相手を命じ、心のたかぶっているときにはよくけがをさせた。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、供も厳しく、四家老もみな扈従こじゅうしてゆくことになった。岡田長門守、浅井田宮丸、津川玄蕃げんば、滝川三郎兵衛の四名である。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民弥は近日その主人の、姉小路卿に扈従こじゅうして、京都の地へ帰って行く筈である。姉小路卿の家臣として、京都まで行くことは道中何より、これより安全のことはない。関所などでも咎められない。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左近はすぐに扈従こじゅうの者をさがらせ、膝をつき合せるようにして坐った。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
眼ばやい小姓は、しいことでございます——と、それを扈従こじゅうの将たちにあとで話した。はて? ……と一同もせぬ顔して
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで道人に扈従こじゅうして、旅へ出たいと云い出したのである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかもそれは、信長一人の盛装と、扈従こじゅうの美観だけではなかった。信長は、この大馬揃いに出場を命じた諸侯へ対しては、すべてに向って
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、その折扈従こじゅうの老職輩が、云い合わせたように、各〻郷里へ引きこもってしまい、近頃、長島への出仕がないことなども
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)