急込せきこ)” の例文
いかにも伸々のびのび寛容ゆったりして、串戯じょうだんの一つも言えそうな、何の隔てもない様子だったが、私は何だか、悪い処へ来合せでもしたように、急込せきこんで
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源内先生は格別気にもならない風で、今迄の急込せきこみ方と反対に、今度はいかにものんびりと石の階段を踏上ふみのぼって行く。
昨日の夕方、電車を降りて彼が暗い雨のなかを急込せきこんで戻ってくると、家には灯のついた病室が待っていた。彼は妻の枕頭にかがんで「どうだったか」とたずねた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
と賢ちゃんが言掛けると、仲善なかよしの友の言う事だが、私は何だか急に口惜くやしくなって、かっ急込せきこんで
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「貴樣ッ厭やなのか」細君は默つてゐる。「己が生活に苦しんでゐる事が貴樣には解らんのかッ。怪しからん奴だ」段々急込せきこんで來てコン/\と咳をする。目に涙が一杯たまる。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「不安は無いかね、煩悶は無いかね。」と湯村の調子は急込せきこんで来た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
形式的に義務を済ました彼女が元の座に帰って、再び二人に共通な話題の緒口いとくちを取り上げた時、一方では急込せきこんだお時が、とうとう我慢し切れなくなって自働電話をてて電車に乗ったのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはまた何ゆえでございますか?」小次郎の声は急込せきこんでいる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は余りに駆けたので、急込せきこんで、碌々ろくろく声も出なかったが口早くちばや
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「小母さん、伯父はどうなりました」坂口は急込せきこんで訊ねた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
急込せきこんで云いかけるを、飯島は
去年の春、お茶の水の試験が済むと、さあ、その翌日あくるひにでも結納を取替わせるいきおいで、男の方から急込せきこんで来たんでしょう。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兄は驚いた風で、少し急込せきこんで
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「はい、引渡しましょう。秋や定。」と急込せきこむにぞ、側にさぶらいける侍女こしもとにん、ばらばらと立懸くるを、遮って冷笑あざわら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し急込せきこんで聞きながら、境はたてに取った上坂のぼりざかを見返った。峠をおおう雲の峰は落日の余光なごりに赤し。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襖に半身を隠して老番頭、呆れ顔の長いのを、もたげるがごとく差出したが、急込せきこんだ調子で
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と菅子は立ったままで急込せきこんで云う。戸外おもての暑さか、駈込んだせいか、かっ逆上のぼせた顔の色。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「また急込せきこむよ。中洲の話になってからというものは、どうも、骨董こっとうはあせって不可いけない。話の続きでも知れてるじゃないか。……高利の借りぬし、かくいう牛骨、私とそれに弁持十二さ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と美しいひとは、やや急込せきこんで言って、病身らしく胸をおさえた。脱いだ羽織の、肩寒そうな一枚小袖の嬌娜姿やさすがた、雲をでたる月かとれば、離れた雲は、雪女に影を宿して、墨絵につやある青柳あおやぎの枝。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呼吸いきかず、続けざまに急込せきこんだ、自分の声に、町の中に、ぬい、と立って、杖を脚許あしもと斜交はすっかいに突張つッぱりながら、目を白く仰向あおむいて、月に小鼻を照らされた流しの按摩が、呼ばれたものと心得て
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急込せきこんで、訳もない事に不機嫌な御亭ごていが呼ばわる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春狐は思わず、なじるがごとく急込せきこんで火鉢をたたいた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ次第しだい急込せきこむほど、旅僧たびそうますま落着おちつきぬ。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
窓から見たまま振向きもしないで、急込せきこんで
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まどからたまゝ振向ふりむきもしないで、急込せきこんで
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とお三輪が擦寄って、急込せきこんで聞く。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と貴女は急込せきこみてうながしたり。
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
急込せきこむのがまへつ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と幹事も何か急込せきこんで
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛吉あわただしく急込せきこんで
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)