引被ひっかぶ)” の例文
かかる場所にて呼び奉るを、許させらるるよう、氏神を念じて起上った私は、薄掻巻うすかいまきを取って、引被ひっかぶせて、お冬さんを包んだのです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう彼は呟いたまま、しばらく女の寝顔に見恍みとれていたが、何と思ったかきゅうに首を縮めて、またすっぽり夜着を引被ひっかぶってしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
お葉は折柄おりからの雨をしのぐ為に、有合ありあう獣の皮を頭から引被ひっかぶって、口には日頃信ずる御祖師様おそしさまの題目を唱えながら、跫音あしおとぬすんで忍び出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
早速頭から引被ひっかぶって、丁度手の当った処に衣嚢があったから突込んで見たら手紙があった。清水さんの手紙だ。斯う書いてある。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とろんとした眼を据えて、そのまままた小箱を枕にゴロリと横になり、半纏はんてんを頭から引被ひっかぶって寝ころんでしまったものです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
急に身体中が寒くなり夜着をすっぽり頭から引被ひっかぶって無理に眠りを求めるなどという事も間々ありました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
その他の器物や硝子ガラスの破片が、足の踏場もなく散乱している中に、脳漿のうしょうが飛散り、あおい両眼を飛出さしたロスコー氏が、鮮血の網を引被ひっかぶったままよごれたピストルをシッカリと握って
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
北側の屋根には一尺ほども消えない雪が残った。鶏の声まで遠く聞えて、何となくすべてが引被ひっかぶらせられたように成った。灰色の空を通じて日が南の障子へ来ると、雪は光を含んでギラギラ輝く。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
掻巻かいまき引被ひっかぶれば、ふすまの袖から襟かけて、おおき洞穴ほらあなのように覚えて、足をいて、何やらずるずると引入れそうで不安に堪えぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とつい、衣紋えもんって、白い襟。髪艶やかに中腰になった処を、発奮はずみ一打ひとうち、トさっと烏の翼の影、笹を挙げて引被ひっかぶる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なあというに至って、私は天窓あたまからこの掻巻かいまき引被ひっかぶって、下へ、下へ、とずり下って、寝床に沈んだが、なお聞える。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引被ひっかぶせてやりました夜具の襟から手を出して、なさけなさそうに、銀の指環をながめる処が、とんと早や大病人でな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引被ひっかぶって達引たてひきでも、もしした日には、荒いことに身顫みぶるいをする姐さんに申訳のない仕誼しぎだと、向後きょうご謹みます、相替らず酔ったための怪我にして、ひたすら恐入るばかり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女中たちの蔭であやし気勢けはいのするのが思い取られるまで、腕組が、肘枕ひじまくらで、やがて夜具を引被ひっかぶってまで且つ思い、且つ悩み、幾度いくたび逡巡しゅんじゅんした最後に、旅館をふらふらとなって
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その晩は、お爺さんの内から、ほんの四五町の処を、くるまにのって帰ったのです。急に、ひどい悪寒がするといって、引被ひっかぶって寝ましたきり、枕も顔もあげられますもんですか。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝っちまえ! ぐッと引被ひっかぶると、開いたのか、塞いだのか、分別が着かぬほど、見えるものはやっぱり見えて、おまけに、その白いものが、段々拡がって、前へ出て、押立おったって
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わざと裸体はだかに耳打ちすると、裸体に外套がいとう引被ひっかぶって、……ちっとはおまけでしょうけれどもね、雪一条ひとすじ、土塀と川で、三途さんずのような寂しい河岸道かしみちへ飛出して、気を構えて見ますとね
もしか、按摩が尋ねて来たら、堅くらん、と言え、と宿のものへ吩附いいつけた。叔父のすやすやは、上首尾で、並べて取った床の中へ、すっぽり入って、引被ひっかぶって、いい心持に寝たんだが。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風呂おけ引被ひっかぶせられたように動顛どうてんして、わきについた年増を突飛ばすがはやいか——入る時は魂が宙に浮いて、こんなものは知らなかった——池にかかった石だたみ、目金橋へ飛上る拍子に
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この間もあので驚かしゃあがった、尨犬むくいぬめ、しかも真夜中だろうじゃあねえか、トントントンさ、誰方だと聞きゃあ黙然だんまりで、蒲団ふとん引被ひっかぶるとトントンだ、誰方だね、だんまりか、またトンか
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三の烏 すると、人間のした事を、俺たちが引被ひっかぶるのだな。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三の烏 すると、人間のした事を、俺たちが引被ひっかぶるのだな。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「エー。」と振返るに引被ひっかぶせて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは大夜具を頭から引被ひっかぶった。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引被ひっかぶせて、青月代が
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)