巨細こさい)” の例文
之にいきおいづいた山田は感激に満ちて滔々とうとうと述べた、如何に無道徳で、如何に残酷で、如何に悲惨であるかを、実例を引き引き巨細こさいに訴えた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
事に大小は有ッても理に巨細こさいは無い。痩我慢と云ッて侮辱したも丹治と云ッて侮辱したも、帰するところはただ一の軽蔑けいべつからだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして、その捕縛を命じておくと、なにより香箱の行くえをと、右門はただちに仕掛けの壁をあけるべく、巨細こさいにその構造を点検いたしました。
かく多量の血を一度に吐いた余は、その暮方の光景から、日のない真夜中を通して、明る日の天明に至る有様を巨細こさい残らず記憶している気でいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
肉体の関係ということにもいろいろある佐助のごときは春琴の肉体の巨細こさいを知りつくしてあます所なきに至り月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想むそうだもしない密接な縁を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なおその外、例の件に就きても、ぜひ親しく巨細こさいに御相談致し、併せて貴女の御説明をも承りたく存じ候。
馬琴の人物行状の巨細こさいを知るにはかれの生活記録たる日記がある。この日記はイツ頃から附け初めイツ頃で終わってるか知らぬが、今残ってるのは晩年の分である。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
推察し得なかった数人の人たちの仲間に倉地がはいって始め出した秘密な仕事の巨細こさいをもらした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
モーナルーダオは前記の三人と毎日のようにこの耕作小舎に集っては、暴動を起すべき時期、順序、銃器の入手方法、料食の貯蔵法など、巨細こさいにわたって、計画をてて行った。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
お貞は聞きつつ微笑ほほえみたりしが、ふと立ちて店にき、往来の左右をながめ、もとの座に帰りて四辺あたりみまわし、また板敷に伸上りて、裏庭より勝手などを、巨細こさいに見て座に就きつ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだらない者共だと忌々しながら、主膳はそのあいつらの言うことを、巨細こさいいちいち耳に受取らないわけにはゆかない立場に置かれてある。その無遠慮な隠亡共の問答の一ふし——
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その言う通りに切り開いて、二めんの琵琶の胴を作らせたが、そのおもてには自然に白い鴿はとがあらわれていて、羽から足の爪に至るまで、巨細こさいことごとく備わっているのも不思議であった。
これ程巨細こさいに知る為には、小山田家の召使を買収するか、彼自身が邸内に忍込んで、静子の身近く身をひそめているか、又はそれに近い悪企わるだくみが行われていたと考える外はなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ハルトアン氏はコペンハーゲン地区検事を務めて、直接事件の捜査に当ったわけではないが、検察当局の責任者として、事件の報告は巨細こさいとなく受けている身であった。したがって
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これら狂い荒れるざわめきのもとで、私は思い出す——この寄怪な荒々しい、生涯に一あって二とない一日の巨細こさいを。そして私は自分が実際気が狂ったか、または別人になった思いがする。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たゞすに同人も今更いまさらちんずる事能はず今宵こよひの事共白状なしけるにぞ一々口書くちがきを取り翌朝町奉行大岡越前守殿役宅へおくりに相成たり是に因て油屋五兵衞よりは右の始末を巨細こさいに認め五郎藏の死骸しがい檢使けんし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大名や幕府役人の全部について巨細こさいにしるした四冊ないし五冊ものの『大成たいせい武鑑』だの『慶応けいおう武鑑』だのと銘うったもの、それの省略懐中本で二寸に四寸五分ほどの一冊本、同じ型で頁数八、九十丁
武鑑譜 (新字新仮名) / 服部之総(著)
巨細こさいにあたりを調べあげると、はからずも右門の胸により以上の不審を打たれたものは、それなるかまどの上の天井ぎわに見える車井戸の井戸車でありました。
こういう手腕で彼に返報する事を巨細こさいに心得ていた彼は、何故なぜ健三が細君の父たる彼に、賀正がせいを口ずから述べなかったかの源因については全く無反省であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殊にその“Pathology of Mind”は最も熱心に反覆翫味して巨細こさいに研究した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
屍体を巨細こさいに視た上、煤けた部分を払わせて、熟々つくづくと眺めて居た山井検事は、更に頸の部分、手拭の巻きつけてある工合や、頸に喰い込んでる有様等、詳細に観察した後、二三の質問を
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
なせしならんと思ひ早速立歸りて右の趣き巨細こさいに申し立てければ大岡殿然らば文藏夫婦の者外に惡事もあらざるゆゑ助け遣さんと思はれけれども關所破せきしよやぶりと言てははりつけに成べき大法ゆゑ種々いろ/\に工夫ありて又々文藏夫婦を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
取りあげてにえ、におい、こしらえのぐあいを、巨細こさいに見改めていましたが、その目が鍔元つばもとへ注がれると同時に、ふふん——という軽い微笑が名人の口にほころびました。
当時の事情をありのままにしたためた巨細こさいの手紙がようやく余の手に落ちた時の事であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聞て長庵は猶もおそれず勿々なか/\以て左樣の事どもさらおぼえ御座無候程に白状はくじやうなどとは思ひも寄ぬ事なりと大膽不敵だいたんふてきにも白状せざれば越前守殿は丁字屋ちやうじや半藏代人だいにん文七とよばれ其方尋問たづねる次第巨細こさいこたへ成るやと有に文七しづかに頭を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこに取り散らかされてあった身の回りの品を巨細こさいに調べると、路用の金すらも持たずに、ほとんど着のみ着のままで飛び出したことがまず第一に判明いたしましたから
それで遂に押し通せなくなった揚句、彼はとうとう健三に連印を求めたのである。けれども彼がどの位の負債にどう苦しめられているかという巨細こさいの事実は、遂に健三の耳にらなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じっと廊下先の障子を一本一本巨細こさいに見まわしていましたが、と——果然、その痕跡こんせきがあった。
いいながら、そろりそろりとあごのあたりをなでなで、巨細こさいにへやのうちを調べだしました。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
以上の三点を林のごとき静けさを保って短檠のあかりをさしつけながら、巨細こさいに見調べていましたが、そのうちに、ピカリと、真にピカリと、名人の目がさえ渡るや同時に
うやうやしくさし出したのを受け取って、目あての太田五斗兵衛の人別を巨細こさいに調べたが、しかしいない! 娘や妹も、それと思わしき若い女の名まえは見当たらないのです。
巨細こさいによく調べてみると、まず第一に目についたものは、相当使い古したものらしいにかかわらず、少しの手あかも見えないで、ぴかぴかと手入れのいいみがきがかけられてあったことでした。
当の本人である糸屋の若主人の素姓身がらを巨細こさいに洗いたてました。
いうように名人はそろりそろりとあごをなでなで、何かがんのネタになるものはないかと、鋭く目を光らしました。巨細こさいに見調べると、まんなかの女の子の着物の継ぎはぎが、いかにもぶ細工なのです。