とうと)” の例文
文字はとうとばれなかったが、しかし、思想が軽んじられておったわけではない。一万三千の怪物の中には哲学者も少なくはなかった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
煩雑な典故てんことうとんだ、殿中では、天下の侯伯も、お坊主の指導に従わなければならない。斉広には一方にそう云う弱みがあった。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蕪村の理想をとうとぶはその句を見て知るべしといへども、彼がかつて召波しょうはに教へたりという彼の自記は善く蕪村を写し出だせるを見る。曰く
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これほどの女であるが、当時の風俗で、男女の間は自由主義がとうとばれていたから、これも後のはなしであるが、夫の匡衡には一時負かされた。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然レドモ人トリ気ヲとうとビ、厳峻げんしゅんヲ以テ自ラはげまス。すこぶ偏窄へんさくニシテ少シク意ニ愜カザルヤすなわ咄咄とつとつトシテ慢罵まんばス。多ク人ノにくム所トナル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なおこれよりも広くして有力なるは社会全般の気風にして、天下武をとうとぶときは家風武を尚び、朋友武人となり学校また武ならざるをえず。
政事と教育と分離すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかして氏は凡て積極的快楽をとうとび、また一生の快楽よりもむしろ瞬間の快楽を重んじたので、最も純粋なる快楽説の代表者といわねばならぬ。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
これは彫刻というような特殊の芸術を需要の多いのに任せて濫作する弊……拙速をとうとんで、間に合せをして
「そなたさっきも云われた筈じゃ、十津川郷民は勇猛じゃと。……いやいや勇猛ばかりでなく、利にくらまされず節義をとうとぶと、久しい前から聞いてもいるに」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独創をとうとぶが故に、模倣と追従とを卑しみにくむことは変りはないが、自然、乱調子の中にも、長を長とし、優を優とする公論の帰するところも現われようというものです。
兵道にとうとぶところ、これ一つ、兵道家の心得としても、これ一つ。わしは、常々申したのう。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
当時はなお植物に対して漢名のとうとばれし時代であったので、旧来の慣例によりかく漢名を用いたものである。これは当時に在っては、時宜に適した処置であったのであろう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
更ニ之ヲ約併シテ、二字或ハ一字ニ帰納シ、其漢音ニ吻合ふんごうスルヲ以テ、洋音ヲ発シ、看者ノ之ヲ視ル、なお原語ヲ視ル如クナラシム、其漸次ニ約併セルハ、簡捷ヲとうとブ所以ナリ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
社交に和楽あり、人情は密に、文をこのみ、武をとうとび、百年乱を知らずという国がらです
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸の花」には、命をも惜しまない町火消まちびけし鳶者とびのものは寒中でも白足袋しろたびはだし、法被はっぴ一枚の「男伊達おとこだて」をとうとんだ。「いき」には、「江戸の意気張り」「辰巳たつみ侠骨きょうこつ」がなければならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
相手の了解する限度において、むしろ智巧よりも簡易をとうとんだためであって、これが恐らくはたとえとか綽名あだなとかことわざとか称する小さな文芸との、最もはっきりした一つの堺線であろうと思う。
いたる所に、愛国心の中にも、飲酒の中にも、宗教の中にも、冷やかな同じ心酔、浮華な芝居じみた同じ厳粛さ。飲酒の歌は皆、酒や杯にたいする擬人法であった、「汝、とうとき杯よ……」と。
いずれを優る美しさと云って善かろう、夏子は秀子より肥って居る、丸形である、秀子は楕円である、丸形の方には顎に笑靨えくぼがある、顎の笑靨は頬の笑靨よりとうといと或る詩人が云ってあるけれど
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
廉潔をとうとぶのは、外聞のゆえではなくして、自敬の念のゆえである。
な僕はかくのごとき妙法に向って、かくのごとく考えかくのごとく企つべきものでないと信じている。僕はただかのおのずか敬虔けいけんの情を禁じあたわざるがごとき、微妙なる音調をとうとしとするものである。
君子くんしは勇をとうとぶか」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
蕪村の理想をとうとぶはその句を見て知るべしといえども、彼がかつて召波しょうはに教えたりという彼の自記はよく蕪村を写しだせるを見る。曰く
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しこうしてこの三社の詩風もまた大抵相同じであった。徂徠の古文辞派が唐詩を模範となしたのに反し、寛政以降化政の詩人はもっぱら宋詩をとうとんだ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
即ちこれが最も直接なる善である。健康とか知識とかいうものはもとよりとうとぶべき者である。しかし健康、知識其者そのものが善ではない。我々は単にこれにて満足はできぬ。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
争う二人をどちらにも傷つかぬようさばきたまい、末の末までともによかれと兄弟の子に事寄せてとうといお経を解きほぐして、んで含めて下さったあのお話に比べて見ればもとより我はおととの身
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貧なればよく質素にあまんずといへども僅少きんしょうの利を得ればただちに浪費するへきある事なり。常に中庸をとうとび極端にする事を恐るる道徳観をする事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(但し壮大雄渾の句は芭蕉これあれども後世に至りては絶えてなし)故に俳句を学ぶ者消極的美を惟一の美としてこれをとうとび、艶麗なる者、活溌なる者
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
(ただし壮大雄渾の句は芭蕉これあれども後世に至りては絶えてなし)ゆえに俳句を学ぶ者消極的美を唯一の美としてこれをとうとび、艶麗なるもの、活溌なるもの
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
毎月一次茗醼めいえんヲ開ク。輪転シテ主トナル。終レバまた始ム。午後二時ヲ以テ集リ八時ヲ以テ散ズ。客ノ来ルヲ迎ヘズ。客ノ去ルヲ送ラズ。虚礼ヲ省イテ真率ヲとうとブ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)