いい)” の例文
渺々乎びょうびょうことして、あしじゃ。お婆さん、いい景色だね。二三度来て見た処ぢゃけれど、この店の工合がいせいか、今日は格別に広く感じる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いい塩梅あんばいにお天気が続きますね。しかし来月になったら、急にお寒くなりましょう。来年のお正月も又雪でしょうかねえ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さうネ、いつか来てもいいけど、何にもつれやしまひと思ひ升よ、それにつりをするには針だのだのなければなりませんもの、一寸ちよいとは来られないの。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
その時、私が水を掛ける真似まねをしたら、「いい御主人を持って御仕合しあわせ」と言って、御尻をたたいて笑った女が有ましたろう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なるべくここはいい加減に迷亭の鋭鋒をあしらって無事に切り抜けるのが上分別なのである。鈴木君は利口者である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ今の処交通遮断なれどいい加減に出たり這入ったり致居り候。寅彦、「嵐」と題する短篇を送りこし候。例の如く筆を使わないうちに余情のある作物に候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
どこがいいと明らかに指すことが出来れば、どこがわるいということもまた明らかに指すことが出来る、すでに醜い所を指すことが出来ればそれでもほれると云う理は無い。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「母親さんは自分が清元が出来るもんだからそんな事をお言いだけれども、長唄の方がいいサ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やっぱり日本風の裏漉が便利だね。上等の家庭料理になると鳥でも牛でも魚でも大概一度裏漉にかけて使うから口へ入るととけるようだ。消化が早くって吸収がいいから最も衛生法にかなっている。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
アヽ、ナニ、こねいだは大分いいよ、ぢいさまもネ、このごろは又畑へ出て、アレあすこに、人の仕事してるとこで石ツころを拾はしてもらつてまさあ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「そうだろう。しかしあの以来、𤢖の噂も消えたようだよ。まあ、いい塩梅あんばいだ。何しろ、金のかぶとは掘出物だったよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「貴方はそう言いなさるけれど、私だっても他人じゃなし、一緒に死ぬならいいじゃごわせんかえ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この美学者はこんないい加減な事を吹き散らして人をかつぐのを唯一のたのしみにしている男である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たたいて、開けておくれと言えば、何の造作ぞうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはらを夜中に徘徊はいかいするのはいい心持こころもちのものだと、二ツ三ツ言争いいあらそってた、いまのさき
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
放擲うっちゃってお置きなさいヨ。身から出たさびだもの、ちっとは塞ぐもいいのサ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
マアぼうは、そんなことを決していうのじゃありませんよ、坊はやっぱりそのままがわたしにはいくいいのか知れぬ
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
何とかいい智慧ちえはないか知らぬと帰る途次みちみちも色々に頭脳あたまを悩ました末に、父にむかってこういう嘘をいた。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「でも何だかそれじゃ好笑おかしいわ。それを御着なさる位なら、まだ今までの方がいいのですもの」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そんな連中があるでしょうか」と細君は分らんものだからいい加減な挨拶をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヘーそうかい……それに附けても早く内で帰ッて来ればいいが……イエネ此間こないだもお咄し申た通りお前さんのお嫁の事に付ちゃア内でもちいと考えてる事も有るんだから……もっとも私も聞て知てるこったから今咄してしまってもいいけれども……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おまへもあの女に今まで可愛がつておもらひだつたから、日和下駄ひよりげたの一足もそれで買つておやりだといいネ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
くと聞くより冷笑あざわらって、お前も武士の女房でないか、幽霊の変化のと云う物が斯世このよにあろうと思うか、馬鹿もいい加減にしろと頭ごなしに叱り付けたが妹は中々承知せず
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私の一生には夢が附まとっている」と、よく仰いました。こういう風ですから、夢見がいいにつけ、わるいにつけ、それを御目が覚めてから気になさることは一通りで無いのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「君のうちから誰か連れて来ればいいのに。大勢いるだろう」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは後生楽ごしょうらくの人間ですから、とこへ這入つたが最後、夜のあけるまで一息にぐつすり寝込んで、夜なかに何があつても知らない方ですから、その晩もいい心持こころもちに寝てしまつたんですが
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
おとうさまが明日あしたは町へおでだから其時行つて見て来たらいいでせう。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
かあちやん、今こゝにすぐとあればいい
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)