四十雀しじゅうから)” の例文
雀だって、四十雀しじゅうからだって、軒だの、榎だのにとまってないで、僕と一所に坐って話したらみんな分るんだけれど、離れてるから聞えませんの。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども蜂雀はやっぱりじっとその細いくちばしをとがらしたまま向うの四十雀しじゅうからの方を見たっきり二度と私に答えようともしませんでした。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
路地の内ながらささやかな潜門くぐりもんがあり、小庭があり、手水鉢ちょうずばちのほとりには思いがけない椿の古木があって四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすが来る。
花火 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
竹むらにからまる烏瓜からすうりをつつきに来るからす、縁側の上まで寄って来る雀、庭木の細かい枝をくぐるひわ四十雀しじゅうからの姿も目に止った。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
雲を吐く老杉の梢では四十雀しじゅうからしきりに囀り、清い谷川の水が其そばをゆたかに流れ、朱色の躑躅つつじの花が燃え上る炎のように木の下闇を照していた。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
啄木鳥きつつきむくの木をつついている。四十雀しじゅうからが枝をくぐっている。閑古鳥が木の股でいている。そうして池には蛙がいる。おはぐろとんぼが舞っている。
畳まれた町 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その谷あいの秋色は素晴すばらしい眺めであったけれども、足もとばかり視詰みつめていた私は、おりおり眼の前を飛び立つ四十雀しじゅうからの羽音に驚かされたくらいのことで
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
既に多くの人に気づかれていることは、四十雀しじゅうからが家を捜しまわって、巣箱の近くへ来てもまだ考えている。
山雀やまがらやら、四十雀しじゅうからやら、その他の小鳥が、チェンチェンツーツーと林の暗い、繁みで小啼ささなきをしていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近在を駈け廻って帰ったデカやピンがあえぎ/\来ては、こがれた舌で大きな音をさせて其水を飲む。雀や四十雀しじゅうから頬白ほおじろが時々来ては、あたりをうかがって香炉の水にぽちゃ/\行水をやる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
近在を駈け廻って帰ったデカやピンが喘ぎ喘ぎ来ては、こがれた舌で大きな音をさせてその水を飲む。雀や四十雀しじゅうから頬白ほおじろが時々来ては、あたりを覗って香炉の水にぽちゃぽちゃ行水をやる。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
仕方がないからまた眼を庭の方へ転ずると、四十雀しじゅうからはすでにどこかへ飛び去って、例の白菊の色が、水気みずけを含んだ黒土に映じて見事に見える。その時ふと思い出したのは先日の日記の事である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うぐいす四十雀しじゅうからも、白い日光をさ青に煙らせている木の若芽も、ただそれだけでは、もうろうとした心象に過ぎない。俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって来る。
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
小禽とは、すずめ山雀やまがら四十雀しじゅうから、ひわ、百舌もず、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽じゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
露時雨つゆしぐれ夜ごとにしげくなり行くほどに落葉朽ち腐るる植込うえごみのかげよりは絶えず土のくんじて、鶺鴒せきれい四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすなぞ小鳥の声は春にもましてにぎわし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
四十雀しじゅうからでも藪鶯やぶうぐいすでも、来たかと思うとすぐに行ってしまって、遊んでいようとする心持が少しもない。
谷にはうぐいす、峰には目白めじろ四十雀しじゅうからさえずっているところもあり、紺青こんじょういわの根に、春はすみれ、秋は竜胆りんどうの咲くところ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぎ鳶色とびいろになり、松は微黄びこうび、はだかになったかえでえだには、四十雀しじゅうからが五六白頬しろほ黒頭くろあたまかしげて見たり、ヒョイ/\と枝から枝に飛んだりして居る。地蔵様じぞうさまの影がうっすら地に落ちて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
仕方がないから「はああ」と長く引っ張ったが、御母おっかさんは少々不平の気味である。さあしまったと思ったが別に片附けようもないから、梅の木をあちらこちら飛び歩るいている四十雀しじゅうからながめていた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
傍の雑木林で四十雀しじゅうからや、山雀やまがらが鳴いています。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
う云ってしまうと蜂雀はちすずめの細いくちばしは、またとがってじっと閉じてしまい、その眼は向うの四十雀しじゅうからをだまって見ていたのです。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
偶然にそれを子供が見出したのだが、雀ではどうもないようだ。頬白ほおじろはこういう穴住居はしないし、四十雀しじゅうからならよく来るが、どうも小さい頃見た四十雀の巣ともちがう。
この、秋はまたいつも、食通大得意、というものは、木の実時なり、実り頃、実家の土産のきじ、山鳥、小雀こがら山雀やまがら四十雀しじゅうから、色どりの色羽を、ばらばらと辻にき、ひさしに散らす。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かんざしの玉のような白い花の咲く八ツ手の葉陰には藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきしている。ひよどりは南天の実を啄もうと縁先に叫び萵雀あおじ鶺鴒せきれいは水たまりの苔を啄みながら庭の上にさえずる。鳩も鳴く。四十雀しじゅうからも鳴く。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なるほど今でもちゃんとした路はある。しかし以前は馬主の総数に賦課した道路の修繕を今は双方の山口の一村が引受けるのである。ゆくゆくは鶯の巣から四十雀しじゅうからの巣に変形して行くのは必然である。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)