ばなし)” の例文
また掛け合いばなしになる。——黙って聴け。痣の熊吉は雨戸を外したり、さんを切り取ったり、かなり器用なことをして忍び込むようだ。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、顧みて苦笑しながら、局中つぼねじゅうの者を集めて、夜は夜で、得意の「むかしばなし」をせがまれ、盛衰記の一節を、おもしろおかしく物語っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大神楽だとか講釈師だとか、手品師とかおとしばなしとか俗曲などの芸人を呼んで、二階をぶっとおして近所の者も招いたりして、にぎやかに見物した。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「驚いたねえ、火の玉に鍍金に、こけだえ。まるで三題ばなしのようじゃないか。さぞ差配様おおやさまがお考えなすったろう、ああ、むずかしい考えものだね。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其磧以後の小説を一と通り漁り尽した私は硯友社諸君の器用な文才には敬服しても造詣ぞうけいの底は見え透いた気がして円朝の人情ばなし以上に動かされなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あわて者が馬へ逆さに乗って尻尾しっぽを見て、「おやこの馬には頭がねえ」と言ったが、乗り直して頭を見て、「尻尾もねえ」と言ったという笑いばなしがある。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はおとぎばなしの主人公でもなったような気持だった。おとぎ噺の中では、或いは映画の画面では、浩一に当る青年は、どんなしぐさをするのだろうと思ったりした。
薔薇夫人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
も知っていた舌切雀したきりすずめ、お宿はどこじゃなどもその一つの場合であり、東北ではまめばなしなどといって、座頭ざとうがよく人を笑わせた大話おおばなしも、是から導かれているようだ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとい女子供に至るまで茶呑ちゃのばなしにてもかれこれのうわさは一切いたすまいぞ、とのお触れだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あき屋敷の庭へでも這い込んだろうということになって、見物人は次第に散ってしまったのですが、なにしろ、それが蛇と小娘と切髪と、不思議な三題ばなしが出来あがっているので
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は一口ばなしや謎々やことわざのたぐいをどっさり知っていて、冗談や洒落しゃれを飛ばすのが好きだったが、しかもいつ見ても、いったい当人がふざけているのやら真面目まじめに言っているのやら
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こんな下らない身の上ばなしじゃ小説にもなりますまい、ほんとうに御退屈でしたろう……
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
だが、そうなると稚市の誕生には、またちょっと、因果ばなしめいた臆測がされてきて、あるいは、根もない恐怖にしいたげられていた、信徒達の酬いではあるまいかとも考えられてくる。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
女の身の上ばなしというものには、少しも興味を持てないたちで、それは女の語り方の下手なせいか、つまり、話の重点の置き方を間違っているせいなのか、とにかく、自分には、つねに
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
実は原因を見つけることの出来ぬ程複雑な「必然」と見做みなすのが至当であって、怪談や因果ばなしの中にあらわれる偶然を、私はむしろ、この「複雑な必然」として解釈したいと思うのである。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
いてつくやうな風が吹き上げる縞羅紗しまらしやの外套を、しつかと身に引きしめてゐられるのや、私たちが心を引き立てゝ、先生の云はれる「勇敢な兵士」の如く、前進するやうに、訓言や、たとへばなしなどで
今を去る三十年の昔、三だいばなしという事一時いちじの流行物となりしかば、当時圓朝子が或る宴席において、國綱くにつなの刀、一節切ひとよぎり船人せんどうという三題を、例の当意即妙とういそくみょうにて一座の喝采を博したるが本話の元素たり。
おぼえていたりしているいろいろのおとぎばなしをしあってあそびました。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「腹痛に雷鳴に女船頭、三題ばなしですね」とささやき合った。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これは三だいばなしでございます。
おとぎばなしひたきに。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
又掛け合ひばなしになる。——默つて聽け。痣の熊吉は雨戸を外したり、さんを切り取つたり、かなり器用なことをして忍び込むやうだ。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「いよう、思いがけない美人がこのあたりへ匂って来たぞ。猪鍋に天女が天降あまくだって来るとは、むかしばなしにもない」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南蛮なんばん秘法の痲痺薬しびれぐすり……あの、それ、何とか伝三熊の膏薬こうやくとか言う三題ばなしを逆に行ったような工合で、旦那方のお酒に毒でもありそうな様子あいが、申訳がございません。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳥渡因果ばなしめくけれども、お筆が全盛のころおい通い詰めた人達の遺品を——勿論その中には彼女のために家蔵を傾け、或は、非業の末路に終った者もあったであろうが——それを
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
……緞帳どんちょう芝居の役者評判か色ばなしか、近所合壁がっぺきの悪口が始まる、……恥も外聞もねえような、男も顔が赤くなるような下劣なことを饒舌って、げらげら笑って、しめえにゃアてんでんが
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おとばなしかい。馬鹿にしている」私が少々怒って見せると、本田は真顔になって
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さあ、またなにかおとぎばなしをしようよ。」
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よいおとしばなしとしも七十の
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ガラツ八が冗談の題目にしたのも、平次がすつ頓狂な聲を出したのも、掛け合ひばなし程度以上のものではなかつたのです。
こりゃね、一つお前さんに仕方ばなしをして貰おうよ。海獣けものの訓練の順序を
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「第一、あの話し振りの面白さと言ふものは、親分の前だが、——柳橋から谷中まで、なんの事はねえ、掛け合ひばなしだ。色つぽくて、氣がきいて、洒落しやれて居て」
「第一、あの話し振りの面白さというものは、親分の前だが、——柳橋から谷中まで、なんの事はねえ、掛け合いばなしだ。色っぽくて、気がきいて、洒落しゃれていて」
親分はなまけ者で、子分は呑氣者で、お米の値段とかゝはりのない掛け合ひばなしばかりしてゐるのかと思ふと、豈計あにはからんや、今日はまた金儲けの話を持込んで來る八五郎です。
「怪談ばなしは後で聽くとして、それで、大方解つたよ。修驗者東海坊は、矢張り人に殺されたんだ」
「冗談でせう、怪談ばなしなどはこちとらには通用しねえ、——精一杯證據を隱したつもりでも、その床の間の千字文と庭訓往來を、その儘にして置いたのは大手ぬかりだ」
八五郎の仕方ばなしは次第に熱を帶びて、平次もツイ膝を乘出さずにはゐられなかつたのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ばなしをしたり、まりをついたり、草双紙くさざうしを讀んだり、綾取りをしたり、雨降り續きでお客がないから、何しろ退屈でせう、——頬つぺたを嘗められたのはおまけですが、三度々々が店屋物てんやもの
平次と八五郎は掛け合ひばなしを續け乍ら、なほも念入りに部屋の中を調べました。
これは、仕方ばなしをするまでもなく、新三郎にもはつきり判りました。
それ見ろ、昨夜、明神下の俺の家の、窓から覗いて居たのは、お前の面だらう。酉刻むつ(六時)少し過ぎから戌刻いつゝ(八時)過ぎまで、その面が窓から動かねえから、俺と八五郎は、飛んだ馬鹿な掛け合ひばなし
ガラツ八の仕方ばなしを、平次は默つて聽いて居りましたが——
などと、掛け合ひばなしは埒もありません。
「へエー、その昔ばなしは面白さうだね」
「怪談ばなしだな」