こご)” の例文
不安動揺の人間の悲劇がこごって、この無比の菩薩像が立ちあらわれたに違いないが、あの駘蕩としてのっぺりした御顔を仰いでいると
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
兄の不甲斐ふがいない性質に対する日頃の不満と、この弟をこごつた瑩玉えいぎょくのやうに美しくしてゐる生れ付き表現のみちを知らない情熱と
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
蒼白あをじろう、はひのやうに蒼白あをじろうなって、みどろになって、どこもどこもこごりついて。ると其儘そのまゝ、わしゃうしなうてしまひましたわいの。
変にこごった雲のかたまりが少しずつ動いているらしく、その上方の鋭い山脈の色合が黒から藍と変って来ても、西洋人どもは誰ひとり見に来なかった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
線をし、筋を為し、円を描き、方形を形成かたちづくり、流れこごり、紙帳の面貌おもては、いよいよ怪異を現わして来た。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勃然ぼつぜんとして焼くような嫉妬しっとが葉子の胸の中に堅くこごりついて来た。葉子はすり寄っておどおどしている岡の手を力強く握りしめた。葉子の手は氷のように冷たかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
みんな天の川の砂がこごって、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、鷺がみんな、あしをこういう風にして下りてくるとこを
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
早や早やも土はこごりて、岩角の犬羊歯が下、枯れ枯れの雑木の根ごと、そくそくと氷柱つららさがれり。ほきほきと氷柱つらら掻き折り、かりかりと噛みもて行けば、あなつめた、つめたかりけり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この草を煮とらかすとよくこごるので、「ここりぶと」からココロブトといい出した時代が久しく、意味とは何の関係もなしに、心太の文字を使い出したのが、文字はそのままにしておいて
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鉞を研ぐ前に立った鼻筋の太いのは熱心に鉞の物凄く光るのを見守っていた——晩方ばんがたの冷気が膚に浸みて、鼻から出る息が白くこごった。この際は三人とも等しく歌に心を取られていたらしい。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのしづくは丁度秋の野の黄色い草に置く露のやうに、籠にこごりつきました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
日や落入りておぼるゝは、こごるゆふべの血潮雲ちしほぐも
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
焼きつくされた娘心をこごらせるあなたにむか
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
すいてこごった泉の中に
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
空はこごって青く澄み、大陸のような雲が少し雨気で色を濁しながらゆるゆる移って行く。隣の乾物ほしものの陰に桐の花が咲いている。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
血が一筋吹き上り、五寸あまりも宙に躍ったのはその痙攣と同時であったが、しかしそれも一刹那せつなで、乙女の振り撒いた茶褐色の粉が、流れる血汐ちしおこごらせた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「磐が根のこごしき山に入りめて山なつかしみ出でがてぬかも」という歌があり、これは寄山歌だからこういう表現になるのだが、むしろ民謡風にらくなもので
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
早や早やも土はこごりて、岩角の犬羊歯が下、枯れ枯れの雑木の根ごと、そくそくと氷柱つららさがれり。ほきほきと、氷柱掻き折り、かりかりと噛みもて行けば、あなつめた、つめたかりけり。
白い髭に微かに洩れる鼻息が白くこごってかかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
日や落入りて溺るゝは、こごるゆふべの血潮雲
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
こごえた豌豆汁えんどうじる
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
格幅かっぷくのいゝ身体に豊かに着こなした明石あかしの着物、面高おもだかで眼の大きい智的な顔も一色に紫がゝつたくり色に見えた。古墳の中の空気をゼリーでこごらして身につけてゐるやうだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
いつかしき国の境や椴松に雲白うゐてこごりたりけり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こごえた豌豆汁えんどうじる
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
青くこごってんだ東北特有の初夏の空の下に町家はくろずんで、不揃ふぞろいにならんでいた。ひさしを長く突出つきだした低いがっしりした二階家では窓から座敷ざしきに積まれているらしいまゆの山のさきが白くのぞかれた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
精舎しやうじやまた水晶とこごときうれひやぶれて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こごりかけつつ行き消えぬ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
立ちこごる夜霧なり。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだこごりて。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)