内証ないしょう)” の例文
旧字:内證
「今日まで内証ないしょうにしていたんですが、実は四五日まえから脅迫状を寄来よこす奴がいるんです。初めは誰かの悪戯いたずらだと思ってたんですが」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蟠「そうよ、内証ないしょうで遊びに往っている金太夫に遇うまで貴公はへ往って、赤い切れを掛けた女を抱いて寝てれば百金は才覚する」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二十四五の中年増ちゅうどしまで、内証ないしょうは知らず、表立った男がないのである。京阪地かみがたには、こんな婦人を呼ぶのにいのがある。(とうはん)とか言う。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ母と弟にはまだ内証ないしょうにしてあった。もう一人このせきにだいじな人がけていた。それはあの気のどくなヴィタリス親方。
そのほかいろいろあるが、中には舌を捲くような名文や、きわどい告白がある。芸者の内証ないしょう話にも負けない位である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「な、な。……旦那に内証ないしょうにしておいてやるからよ。俺にだって、いいじゃねえか」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分で上等も無いもんですが、先日上京した時、銀座の亀屋かめやへ行って最上のをれろと内証ないしょうで三本かって来て此処ここかくして置いたのです、一本は最早もうたいらげて空罎あきびん滑川なめりがわに投げ込みました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「きみたちのくることはみんなに内証ないしょうにしておこうよ。堀口君がうるさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五条家では、奥さんを始として、ひどく心配して、医者に見せようとしたが、「わたくしは病気なんぞはありません」と云って、どうしても聴かない。奥さんは内証ないしょうで青山博士が来た時尋ねてみた。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「会員が集まることは先生には内証ないしょうだから、そのつもりでね。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
内証ないしょうで飲んでるんだ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それも決して女房になんぞ、しますわけではございません。一生日蔭ものの下女同様に、ただ内証ないしょうで置いてやりますだけのことでございますから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両親に相談そうだんする。そうしたらかれらはわたしが内証ないしょうにしようとしていることをすぐ言いたてるだろう。わたしがだということを言いたてるだろう。
權「他に心得はねえが、夜夜中よるよなか乱暴な奴がへえるとなりませんから、わしゃア寝ずに御殿の周囲まわり内証ないしょうで見廻っていますよ、もし狐でも出れば打殺ぶっころそうと思ってます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「有難う、家へは内証ないしょうにしてね」
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
内証ないしょうのお蔦の事、露顕にでも及んだかと、まさかとは思うが気怯きおくれがして、奥方にもちょいと挨拶をしたばかり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まア鬼のいないうちの洗濯じゃアないか……なア安兵衞、兄貴は分らぬてえものだ、此のどうも脇差を弟に内証ないしょうで時々ズーッと鞘を払い、打粉を振って磨き、又納め
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたしは囚人しゅうじんれの食べ物の中に、よく友だちからの内証ないしょうのことづけを見つけるという話を聞いていた。わたしは食べ物に手がつかなかったが、ふと思いついて、パンをり始めた。
お妙は時に、小芳の背後うしろで、内証ないしょうで袂をのぞいていたが、細い紙に包んだものを出して気兼ねそうに
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのね内証ないしょうでお母さんに逢って詫言をしたい、辛抱人に成ったてえが、本当に成ったかも知れないよ、内証でお母さんに逢いたいって坊に斯様こんなにお銭をくれたよ、お銭を
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
少し商売の取引の事が有るからく積りだ、これまで私は馬鹿をて拵えた借財をお前が内証ないしょうで払ってくれた借金の極りも附けなければならないから、是非横浜へ往きたいのだが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四辺あたりみまわす)う/\、思つた同士、人前で内証ないしょうで心をかよはす時は、ひとツに向つた卓子テエブルが、人知れず、あしを上げたり下げたりする、かすかな、しかし脈を打つて、血の通ふ、其の符牒ふちょうで、黙つて居て
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お蔵の棚へ内証ないしょうで取っといておくんなすって、ちょいと出し物があるから蔵まで一緒に行っておくれって連れてって、さ、お食べってカステラ巻だのなんだのを食べさせて下すったり
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
癩坊主かったいぼうずが、ねだりごとうけごうて、千金せんきんかんざしてられた。其の心操こころばえに感じて、些細ささいながら、礼心れいごころ内証ないしょうの事を申す。貴女あなた雨乞あまごいをなさるがい。——てんの時、の利、ひとの和、まさしく時節じせつぢや。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わしが重役と中の悪い処から此の様に浪人致し、お前は何も知らない身分で、住み馴れぬ裏家住居、わし内証ないしょう肌着はだぎまでも売ったようだが、腹のった顔も見せず、孝行を尽して呉れるに
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
横浜へくからお父さんに内証ないしょうで脇差を持って来てくれと頼みました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついては内証ないしょうに百両借金がありますから、之を払って遣ればすぐ此処こゝへ来られる訳だ、出して下さいといえば是非金を出す…いゝえ出るに極っているのだから、出したら借金を払ってお前と二人で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝ是は内儀かみさんや奉公人に内証ないしょうで毒虫を捕るのだと勘づきましたよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
孝「殿様に御用ではなく、あなたに内証ないしょうの御用でしょう」