入来いりきた)” の例文
旧字:入來
綱曳つなひきにて駈着かけつけし紳士はしばらく休息の後内儀に導かれて入来いりきたりつ。そのうしろには、今まで居間に潜みたりしあるじ箕輪亮輔みのわりようすけも附添ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あたかも外より入来いりきたる一巡査は藻西太郎を捕縛に行きたる一人いちにんなる可し「唯今帰りました」の声を先に立てゝ第一に警察官の前に行き
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これで漸く楽になったと、純之進絹布の夜具の中に入ろうとすると、何者やらソロソロとふすまを開いて入来いりきたった。見ると地方にはまれな美しい娘であった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
小使うやうやしく入来いりきたりて卓子テエブルの上にそれをせつ、一礼して退出すさりいずるを、と見れば毎晩新聞なり、綾子はかたえ推遣おしやりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘去る。主人は両手にて顔を覆いいる。娘の去るや否や、一人の男すぐに代りて入来いりきたる。年齢はおよそ主人と同じ位なり。旅路にてよごれたりと覚しき衣服を纏いいる。
その間、あたりなる客は珍らしげに、後につきて入来いりきたれる男を見つめたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
胡麻塩羅紗ごましほらしやの地厚なる二重外套にじゆうまわしまとへる魁肥かいひの老紳士は悠然ゆうぜんとして入来いりきたりしが、内の光景ありさまを見るとひとしく胸悪き色はつとそのおもてでぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
れど彼れ翌日は静かに余が室に入来いりきたり再び礼を繰返したる末、意外にも余に晩餐の饗応せんと言出いいいでたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
たれにか棄てられけむ、一頭いつとう流浪るらうの犬の、予が入塾の初より、数々しば/\庭前ていぜん入来いりきたり、そこはかと𩛰あさるあり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
秋晴の気も爽やかなる日に、羽田要島の弁天社内、例の茶店へ入来いりきたったのは、俳諧の宗匠、一水舎半丘いっすいしゃはんきゅう
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
いとはしたなくて立てる満枝はドアくに驚かされぬ。入来いりきたれるは、附添婆つきそひばばか、あらず。看護婦か、あらず。国手ドクトルの回診か、あらず。小使か、あらず。あらず!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ややありて黒くせたる小男と、青くふとりたる大男と、両々光子をさしはさみて、引立々々入来いりきたれり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわたゞしく入来いりきたり何やらん目科の耳に細語さゝやくと見る間に目科は顔色を変て身構し「し/\すぐに行く、早く帰ッて皆にそうえ」と、命ずる間もいそがわしげなり、男は此返事をるや又一散いっさんに走去りしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日蔽ひおおいに隠れし処へ、人形室の戸を開きて、得三、高田、老婆お録、三人の者入来いりきたりぬ、程好き処に座を占めて、お録はたずさえ来りたる酒とさかな置排おきならべ、大洋燈おおランプに取替えたれば
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むつまじやかなる談話はなしの花を、心無くも吹散らす、疾風一陣障子を開けて、お丹例のごとく帯もしめず、今起き出でたる風情にて、乱れ姿に広袖どてら引懸ひっかけ、不作法に入来いりきたりて、御両方おふたかたの身近に寄り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に棟に通ずるくだん階子はしごを棟よりして入来いりきたる、岩代国いわしろのくに麻耶郡まやごおり猪苗代の城、千畳敷のぬし、亀姫の供頭ともがしら、朱の盤坊、大山伏の扮装いでたち、頭にさいのごとき角一つあり、まなこつぶらかにつらの色朱よりも赤く、手と脚
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五六名どやどやと入来いりきたりて、正体もなき謙三郎をお通の手より奪い取りて、有無を謂わせず引立ひったつるに、啊呀あなやとばかり跳起はねおきたるまま、茫然として立ちたるお通の、歯をくいしばり、瞳を据えて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)