何程どれほど)” の例文
只だ人生の保証として、又事実として自分の有して居る感覚に何程どれほどの力があるか、此れを考えた時に吾々は斯く思わずには居られない。
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『隠せ』——其を守る為には今日迄何程どれほどの苦心を重ねたらう。『忘れるな』——其を繰返す度に何程の猜疑うたがひ恐怖おそれとを抱いたらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私は小鹿野をかのの奥の権作ごんさくと申しますもので、長左衛門様には何程どれほど御厚情をかうむりましたとも知れませぬ、——さわぎで旦那様はあゝした御最後——が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それを此様こんな読方をして、難有ありがたがって、たまたま之を読まぬ者を何程どれほど劣等の人間かのように見下みくだし、得意になって語る友も友なら、其を聴いて敬服する私も私だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貴方は……あの蕪木かぶらぎ君。私の友人、私の同志である蕪木君の妻であつた。その貴方を私は愛したため、私が何程どれほどの犠牲を拂つたか、貴方はよつく御承知でせう。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
不気味と云へば倫敦ロンドンの博物館の数室で見た埃及エヂプト木乃伊みいらの幾十体の方が何程どれほど不気味であつたか知れない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
日本人が昔から不朽なる光榮の象徴とした「松の老木おいき」よりも、唯だ一語 Linden(菩提樹)と云ふ獨逸語は、何程どれほど無限の感想を呼起すかと云ふやうな事から
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
追々世の中がひらけて、華族様と平民と縁組を致すようになった当今のお子様方は、この島路の口上をお聞きなすっては、開けない奴だ、町人と職人と何程どれほどちがいがある
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家一つ戴いて何程どれほどの事があろう、痩我慢やせがまんな行過ぎだと、小腹が立って帰りましたが、それといって棄てておかれぬ、直ぐにといってお嬢様が、ちょうどまたお加減が悪い処
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
応仁、文明、長享、延徳をて、今は明応の二年十二月の初である。此頃はかみは大将軍や管領から、しもは庶民に至るまで、哀れな鳥や獣となったものが何程どれほど有ったことだったろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またニュートンの力学の基礎は輓近ばんきん相対原理の発展につれてぐらついて来たには相違ない。しかしこの原理の研究が何程どれほど進んでも、ニュートンの力学が廃滅に帰するという訳ではあるまい。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ヂュリ なみだ何程どれほどことをしませう、生得うまれつきともないかほぢゃもの。
彼は弟の手をって過去の辛酸を語ろうともしなければ、留守中何程どれほどの迷惑を掛けたろうと、深くその事をびるでもなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何程どれほど一人で心を痛めたかしれないワ——貴嬢の阿父おとつさんは篠田さんを敵の如く憎んで居らつしやるんですとねエ——まア、うしたらいんでせう——梅子さん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
読んで分った所で、ファウストが何程どれほどの物だ? 技巧の妙を除いたら、果してどれ程の価値がある? いわんや友はあやふやな語学の力で分らん処を飛ばし飛ばし読んだのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何程どれほど甘味うまみのあると云ふではないが、さびのある落ちついた節廻しは一座をしんとさせることが出来た。金太郎と云ふ芸者がひよつとこ踊でよく喝采を博した。おもちやはつづみをうつ。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「結婚は戀の墳墓なり」と云ふ格言が此の際何程どれほど強く私の心に響いたであらう。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
不換紙幣は当時何程どれほど世の中の調節に与つて霊力が有つたか知れぬ。其利を受けた者は勿論利休では無い、秀吉で有つた。秀吉は恐ろしい男で、神仙を駆使して吾が用を為さしめたのである。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こうした御慣れなさらない山家住やまがずまいのことですから、さて暮して見れば、都で聞いた田舎生活いなかぐらし静和しずかさと来て寂寥さびしさ苦痛つらさとは何程どれほど相違ちがいでしょう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
乳の世話から糞尿おしめの世話、一人前に仕上げる迄、何程どれほどの苦労だつたとも知れたもんぢやない、チヨツ、新橋の花吉が一人で出来たとでも思ふのか、オイ花吉
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし折角殊勝の世界に眼を着け、一旦それにむかって突進しようと心ざした者共が、此の一関いっかん塞止せきとめられてむを得ずに、躊躇ちゅうちょし、徘徊はいかいし、遂に後退するに至るものが、何程どれほど多いことであろうか。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よく大久保のうわさが出た。雨でも降れば壁が乾くまいとか、天気に成れば何程どれほど工事が進んだろうとか、毎日言い合った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前の方からも、また。あゝ月明りのおぼつかなさ。其光には何程どれほどの物のかたちが見えると言つたら好からう。其陰には何程の色が潜んで居ると言つたら好からう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、山家が何程どれほど恐しい昔気質かたぎなもので、すこし毛色の変った他所者よそものと見れば頭から熱湯にえゆを浴せかけるということは、全く奥様も御存ごぞんじない。そこが奥様は都育みやこそだちです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其様そんなことを言つてる。奈何してまあ女といふものは左様さう解らないだらう。何程どれほど私が市村さんの御世話に成つて居るか、お前だつて其位それくらゐのことは考へさうなものぢやないか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
包紙の印刷は何程どれほど用意してあるか、秋の行商の準備したくは何程出来たか、と達雄は気を配って、時には帳簿の整理のかたわら、自分でも包紙を折ったり、印紙をったりして、店の奉公人を助け励ました。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)