中央なかば)” の例文
秋の中央なかばではあったけれど名に負う信州の高原地帯の木曾の福島であったから、寒さは既に冬に近く炬燵こたつの欲しい陽気であった。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしまばゆかったろう、下掻したがいを引いてをずらした、かべ中央なかばに柱がもと、肩にびた日をけて、朝顔はらりと咲きかわりぬ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
底には裸なる罪人等ありき、中央なかばよりこなたなるは我等にむかひて來り、かなたなるは我等と同じ方向むきにゆけどもその足はやし 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此の花車という人は追々おい/\出世をして今では二段目の中央なかばまで来ているから、師匠の源氏山も出したがりませんのを、義によっておいとまを下さいまし
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……現在いまは同じく一間の距離を持ち、紙帳の側面、中央なかばの位置に立ち、刀を中段に構え、狙いすましておろうがな。……動くか!
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
辿たどりかゝつたのたら/\あがりのながさかの、したからちやう中央なかばおもところで、もやのむら/\と、うごかないうづなかを、がくれに、いつしづみつするてい
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いただきは高くして視力及ばず、また山腹は象限しやうげん中央なかばすぢよりはるかに急なり 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今長兵衞が橋の中央なかばまで来ると、上手うわてに向って欄干へ手を掛け、片足踏み掛けているは年頃二十二三の若い男で、腰に大きな矢立を差した、お店者たなもの風体ふうていな男が飛び込もうとしていますから
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宝蔵は館を少し離れた、庭の中央なかばに建っている。四辺あたりに灯火のないためか、秋の夜空にクッキリと黒くそびえて立って見える。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もすそすらすら入りざま、ぴたと襖を立籠たてこめて、へや中央なかばに進み寄り、愁然しゅうぜんとして四辺あたりみまわし、坐りもやらず、おとがいを襟にうずみて悄然しょうぜんたる、お通のおもかげやつれたり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、やにわに腰の太刀を掛け声も掛けず引き抜いたが、そのままさっと切り付けた。髪のより紐は中央なかばから断たれ、結ぼれていた髪の毛は瞬間にバラバラに解けてしまった。
橋の中央なかばに、漆の色の新しい、黒塗のつややかな、吾妻下駄あずまげたかろく留めて、今は散った、青柳の糸をそのまま、すらりと撫肩なでがたに、葉に綿入れた一枚小袖、帯に背負揚しょいあげくれない繻珍しゅちんを彩る花ならん
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛退とびのひまに雀の子は、荒鷲あらわしつばさくぐりて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出にげいだすを、のがさじと追縋おいすがり、裏手の空地の中央なかばにて、暗夜やみにもしるき玉のかんばせ目的めあてに三吉と寄りて曳戻ひきもどすを振切らんと
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は肩を寒くして、コトコトと橋の中央なかばから取って返す。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)