不得手ふえて)” の例文
わたしは話が不得手ふえてなほうですから、無味乾燥むみかんそうなあっけない話になるか、それともだらしない調子はずれな話になるか、そのどっちかです。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
饒舌しゃべりもし、飛びわりね廻わりして、至極しごく活溌にてありながら、木に登ることが不得手ふえてで、水を泳ぐことが皆無かいむ出来ぬと云うのも
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、小幡民部こばたみんぶは、こうした斬合きりあいはごく不得手ふえてであった。太刀たちをもって人にあたることは、かれのよくすることではない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持ばふるへいでやりも同樣手跡しゆせきに於ては惡筆の上なしゆゑとんと其方は不得手ふえてなりと申に長兵衞は若々其樣に御卑下ごひげなされては御相談が出來ぬと云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
というような普通の人情の触手は生れつき退化し、それによって人ともつれ合うことはとかくに不得手ふえてだったらしい。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不承不承に不得手ふえてな採鉱の方に廻ったお蔭で、ヤット炭坑から学資を出してもらう事が出来たのであったが
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕はそういうことは一向不得手ふえてなので、友人の医者に頼んで見てもらったのだが、このピンの頭がひどくゆがんでいる。何かかどのあるものでたたきつけた跡だ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんな所を歩くのは、山岳家さんがくかなら朝飯前の仕事であろうが、私は元来中学時代に機械体操が非常に不得手ふえてで、鉄棒やたな木馬もくばにはいつも泣かされた男なのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
シネクネと身体からだにシナを付けて、語音に礼儀れいぎうるおいを持たせて、奥様おくさまらしく気取って挨拶するようなことはこの細君の大の不得手ふえてで、めてえば真率しんそつなのである。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金次郎はなかなか腕の出来た人であったが、仏を彫刻することは不得手ふえてであって、仏に附属するところの、台座とか、後光とかいうようなものの製作が美事みごとであった。
日本人のとかく語学に不得手ふえてなるやうにいはるるは中学校にて日本の教師に英語の手ほどきされるがためなるべし。小学中学の恐るべきはこれだけにても知らるるなり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「どうも私には、人の持っているものをさがすのは不得手ふえてだ。これはやはり帆村探偵の専門だよ」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とこの婆やは片仮名の西洋名前が不得手ふえてだ。アレキサンダーも言えない。アレさんと呼んでいる。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
打ち勝て。以上、一般論は終りだ。どうも僕は、こんなわかり切ったような概念論は、不得手ふえてなのだ。どんな、つまらない本にだって、そんな事は、ちゃんと書かれてあるんだからね。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さてその目的を達してしまふと、何か外の方角へ手を出すのである。そんな風で、幼年学校にゐた間、あらゆる学科の最優等生になつてゐた。その頃フランス語の会話が只一つ不得手ふえてであつた。
鉄風 俺は、どうも、そう言うことは不得手ふえてだよ。万事、君に一任する。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
ナニ横着わうちやくな事があるものか、イエあれはほんの心ばかりのいはひなんで、如何いかにもめづらしい物を旧主人きゆうしゆじんからもらひましたんでね、じつ御存知ごぞんぢとほり、ぼく蘭科らんくわはう不得手ふえてぢやけれど、時勢じせいに追はれてむを
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
『おれは不得手ふえてだ』
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ぼく余りお邪魔しに行かぬよう心掛け、手紙だけでも時々書こうと思い、筆をると、えい面倒、行ってしまえ、ということになる。手紙というもの、実にまどろこしく、ぼくには不得手ふえて
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この書生輩の行末ゆくすえを察するに、専門には不得手ふえてにしていわゆる事務なるものに長じ、に適せずして官に適し、官に容れざればに煩悶し、結局は官私不和のなかだちとなる者、その大半におるべし。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
芳夫さんは数学は不得手ふえてだけれど、英語はとても能く出来る。如何にも入学試験に出そうな問題を拵えて教えてくれる。それに未だ学校を卒業したばかりで試験については敏感だから同情が深い。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
返事をフランス語で書くのは、場はずれのような気がするし、さりとてロシア語のつづりにかけては母は不得手ふえてだったし——自分でもそれを知っていたので、みすみすはじをさらしたくなかったのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
一つには中学校長におろされた憤慨がある。頭が好いか悪いか見て貰おうという気だった。語学数学共に不得手ふえてだけれど、歴史丈けはいつも点が好かった。早川君もこの専門に興味を持ってくれた。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)