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三聲
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みこゑ
其が
三聲めに
成ると、
泣くやうな、
怨むやうな、
呻吟くやうな、
苦み
踠くかと
思ふ
意味が
明かに
籠つて
來て、
新らしく
又耳を
劈く……
三聲を
續けて
鳴いたと
思ふと……
雪をかついだ、
太く
逞しい、しかし
痩せた、
一頭の
和犬、むく
犬の、
耳の
青竹をそいだやうに
立つたのが、
吹雪の
瀧を、
上の
峰から
不斷は、あまり
評判のよくない
獸で、
肩車で
二十疋、
三十疋、
狼立に
突立つて、それが
火柱に
成るの、
三聲續けて、きち/\となくと
火に
祟るの、
道を
切ると
惡いのと
言ふ。
もし/\と、
二聲三聲呼んで
見たが、
目ざとい
老人も
寐入ばな、
分けて、
罪も
屈託も、
山も
町も
何にもないから、
雪の
夜に
靜まり
返つて
一層寐心の
好ささうに、
鼾も
聞えずひツそりして
居る。
矢來邊の
夜は、たゞ
遠くまで、
榎町の
牛乳屋の
納屋に、トーン/\と
牛の
跫音のするのが
響いて、
今にも——いわしこう——
酒井家の
裏門あたりで——
眞夜中には——
鰯こう——と
三聲呼んで