一畝ひとうね)” の例文
雷神山の急昇りな坂をあがって、一畝ひとうねり、町裏の路地の隅、およそ礫川こいしかわ工廠こうしょうぐらいは空地くうちを取って、周囲ぐるりはまだも広かろう。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一畝ひとうね麦を刈つてしまふと、ちやうど腰が痛くなるので、その時百姓達は腰をのばす。そのついでに小手をかざして、村の方を見張るのだから、大層工合ぐあひはいい。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ただし、儀作は、最初の場面に現われた時よりも一畝ひとうねほど余計に畠を作っているが、かたわらに居るせた少女も、その半分の処まで、枯れ枝や瓦の破片かけらを植えつけている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おすがゞ五六人連で茶摘をして居る所へ引つ掛つてしまつたからである。女達は一畝ひとうねの茶の木を向合ひになつて手先せはしく摘んで居る。爪先の音がぷり/\と小刻に刻んで聞える。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
? 何ぢやらうまあ。まあいいや、晩にはみんなすつかりわかることぢやけに、その書きつけも今朝の手紙と一緒にしておけや。今日はいい天氣や、日暮まで一畝ひとうね刈るけに、おとよ、お前も手傳へや。
黎明 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
浪打際といったって、一畝ひとうねり乗って見ねえな、のたりと天上まで高くなって、たけの堂は目の下だ。大風呂敷の山じゃねえが、一波越すと、谷底よ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また子供のときから耕していた田圃たんぼ一畝ひとうねが、以前よりずっと長くなったように感ぜられ、何度も腰をのばし、あおっている心臓のしずまるのを待たねばならなかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
がとつぷりとれたときかれ道端みちばた草刈籠くさかりかごおろした。其處そこにははたけ周圍まはり一畝ひとうねづつにつくつた蜀黍もろこしたけたかつてる。草刈籠くさかりかごがすつと地上ちじやうにこけるとき蜀黍もろこしおほきれてがさりとつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さらさらと降る雨に薄白く暗夜やみよにさして、女たちは袖を合せ糸七が一人立ちで一畝ひとうね水田みずたを前にして彳んだ処は
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、その囃子はやしの音は、くさ一叢ひとむら樹立こだち一畝ひとうね出さえすれば、き見えそうに聞えますので。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンに一人の肩を越して、空へ躍るかと、もう一匹、続いてへさきからと抜けた。最後のは前脚を揃えて海へ一文字、細長い茶色の胴を一畝ひとうねり畝らしたまで鮮麗あざやかに認められた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トちょっとあらたまった容子ようすをして、うしろ見られるおもむきで、その二階家にかいやの前からみち一畝ひとうねり、ひく藁屋わらやの、屋根にも葉にも一面の、椿つばきの花のくれないの中へ入って、菜畠なばたけわずかあらわれ、苗代田なわしろだでまた絶えて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今昇った坂一畝ひとうねさがた処、後前あとさき草がくれのこみちの上に、波に乗ったような趣して、二人並んだ姿が見える——ひとしく雲のたたずまいか、あらず、その雲には、淡いがいろどりがあって、髪が黒く、おもかげが白い。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一畝ひとうねうねつてひらめきのぼるが如く見えた其のすごさであつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)