風態ふうてい)” の例文
「そうだ、俺の風態ふうていを見て、ザラにあるお女中と間違えちゃいけねえぜ、スラリとした柳腰よ、ふるえつくようないい女なんだ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着流しに長脇差ながわきざし、ひとつ印籠いんろうという異様な風態ふうていだったので、人目をひかぬはずもなかったが、尾張おわりの殿様も姫路の殿様も、編笠あみがさなしの素面すめん
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
肉付きの良い肩のあたり、健康そうな頬の色、——それは紫外線の強い田舎いなかで働いて居る、知識的な農婦の持つ代表的な風態ふうていではありませんか。
彼の風態ふうていのうちにはその灰色の短衣が装填された拳銃ピストルをかくし、白いチョッキが警察章をかくし、またその麦藁帽が
この二人の男の風態ふうていを見ると、二人ともに古編笠をかぶっていました。二人ともに目の細かいかごを肩にかけて、よごれた着物を着て、草鞋わらじ穿いていました。
……風態ふうていだけは一応の映画屋さんだったが、どうやら、うだつのあがらない万年エキストラの一人だったようだ。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「捕り物かな?」「そうかもしれない」「だが風態ふうていがそれらしくないよ」——などという声も聞こえなされた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鶴やさぎだってそうかも知れぬが立って歩くという感じにならない。とにかく黒のモーニングの礼装れいそうしたような風態ふうていで、それがチャップリンもどきの足つきである所が面白い。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
すこし無躾ぶしつけなくらいにまじまじと風態ふうていを見すえるとその男はべつにたじろぐ気色けしきもなくよい月でござりますなとさわやかなこえで挨拶あいさつして、いや、御風流なことでござります
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、異様いようなその風態ふうていは、牛丸平太郎からなんども聞かされていた。鬼にもひとしい四馬頭目の残忍ざんにんぶりは、戸倉老人や牛丸平太郎から、耳にたこができるほど聞いていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私がこんな異様な風態ふうていをしていても怪しまれる事は無いであろうし、少しはお勘定を足りなくしても、この次、という便利もあるし、それに女給もいない酒だけの店なのだから
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は五尺あるかなしかの小男で、焦茶色にもなり蒼黒あおぐろくもなる顔色の、骨ばかりのようにせた、そして鼻の下にちょびひげを立てたという風態ふうていなんだ。少しばかりは出っ歯だったかもしれない。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どういう間違か、ひょんなうわさが伝わってのう。先生らしい風態ふうていの男が、同志二人とゆうべ亀山口から、東海道へ落ちたというんじゃ。それっというので、海道口の固めが解けたのよ。このすきじゃ。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
女の亭主らしい男は、なに思ったか、急に大勢の村人むらびとをこう制して、相手の風態ふうていを、足の先からっぺんまで見直して言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木戸を押し倒すように、いきなり庭先へ入って来た八五郎の風態ふうていは、全く溝から這い上がって来たねずみのようでした。
それらの屍骸は皆全身に土砂がこびり着いていて顔も風態ふうていも分らぬこと、神戸市内も相当の出水で、阪神電車の地下線に水が流れ込んだために乗客の溺死できし者が可なりあるらしいこと
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
目明しとすぐにわかる風態ふうていであり、他の一人はさっきの百姓ふうの男、もう一人は職人のような恰好をしていたが、店へはいって来るなり、目明しとみえる男が「みんな静かにしろ」とどなった。
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分が聖天しょうでんぬす市へ洞白の仮面めんを買いもどしに行った折、材木置場から隅田川へ追い落したあの男の風態ふうていではなかろうか?
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
警固の武士どもは、しきりに鼻をヒコつかせながら、その馬の背を巡ッてみたり、また酒商人の風態ふうていを下から見あげて。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だしぬけに風態ふうてい見当のつかぬ侏儒が、「しばらく!」といってそこへかがまったので、この場合ではあったが皆、思わずいぶかしげにふりかえると
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こんな風態ふうていをしていやすから、思い出せないのもご尤もです。わっしは生不動身内のこんがら重兵衛ここにいるなあせいたか藤兵衛でございます」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、まだ戻っておりません。けれどあなたがたは?」とお吉が、三人三様の風態ふうていをながめて、何者かしらと疑っていると、それには答えないで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、泥土の上の容貌や風態ふうていを、たとえば、深海の怪魚を陸に揚げて見たように、しげしげ眺め抜いていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
断ってもただ帰りそうもない風態ふうていだというので、ともかく上げて会ってみると、それは宝蔵院で武蔵が阿巌あごんたおした折に、たまりの中にいて見物していた者達で
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、こんな風態ふうていのわれわれだ。あとをけられたら、旅の女など、不気味に思うのはあたりまえだよ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風態ふうていの悪いのが、風呂敷をかぶせた、軍鶏を抱いて、だらだら坂を、往来している姿も、よく見かける。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいとも、宿をさしても上げるが……」と久六、少し役目の形になって、二人の風態ふうていを見直した。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無数の眼はついにまぎれこんでいる人間を調べ出して追いかけた。群れを離れて逃げてゆく風態ふうていのわるい男が二人、鏡ヶ池のふちから山の中へ逃げこんでゆくのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石秀は、聞き終って、もういちど時遷じせん風態ふうていを見直した。なるほど妙に愛嬌があってッこい顔だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず、風態ふうていいやしげだし、かおみにくいときているので、玄徳もすっかり興ざめ顔に
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄昏たそがれ頃、寒々とした風態ふうていのお若い牢人が堂の内をのぞいて——この頃は作州のお婆は参籠に見えぬかと問われますゆえ、いや折々お見えでござる——と答えますと、筆を貸せといい
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はてな? 風態ふうていにも似合わねえ立派な物を……と、ついジロジロ見てたもんですから、奴も気がさしたか、酒も飯もがつがつすまして、すぐ街道を東の方へ急いで行ってしまいましたよ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうさな。俺も見たわけでないが、ぎつけた部下のはなしによると、まだ若いみすぼらしい風態ふうていの男だが、どこか凛然りんぜんとしているから、油断のならない人間かも知れないといっていたが」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか、しかし、怪しい風態ふうていじゃないか。……オヤこっちへ来た」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こないだの晩も、店へ押しけて来たろ。あんな風態ふうていさ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のまま着流しに草履ばきという風態ふうてい
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そして、風態ふうていや年頃は」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)