顛倒てんだう)” の例文
お利榮は四十二三の愚痴ぐちつぽい女で、夫の急死と娘の失踪しつそう顛倒てんだうし、何を訊いてもしどろもどろですが、主人の前身に就ては
ことは、わたしいままでところへ、當人たうにんからけた、符牒ふてふばかりの電話でんわれて、實際じつさい顛倒てんだうしていそぐんです。かないでうしますか、つてはわるいんですか。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このしゆ海鳥かいてうは、元來ぐわんらい左迄さまで性質せいしつ猛惡まうあくなものでいから、此方こなたさへ落付おちついてれば、あるひ無難ぶなんまぬがれること出來できたかもれぬが、不意ふいこととて、しんから顛倒てんだうしてつたので
ぐつと襟元をつかんで引寄せられるやうな強い魅力を感じると共に、はては我れを忘れて其中そのなかへ突きつて共に顛倒てんだうし共に混迷したいやうな気持になるのはう云ふわけであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
殺され心顛倒てんだうしてたゞ其處そこ此所ここ胡亂うろつき居けるゆゑ町役人はしかつけ自身番じしんばんへといそぎけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて娘の母かへり来りおはたやに娘のをらぬを見ていぶかり、しきりにその名をよびければ、かの木小屋にきゝつけて遽驚あはておどろき男は逃去にげさり、娘はこころ顛倒てんだうしてけがしたるも打忘うちわすれおはたやにかけ入り
「武家の娘だ、が——すつかり顛倒てんだうして居るらしいぜ。八親分、こりや飛んだ大きな仕事かも知れないよ」
震聲ふるへごゑで、あわてて、むつちりしたちゝしたへ、扱帶しごきつてきつけながら、身體からだごとくる/\と顛倒てんだうして𢌞まはところへ、づかと母親はゝおやおどろいて、白晝まつぴるま茜木綿あかねもめん、それもひざからうへばかり。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でも藤兵衞が自害したので、すつかり顛倒てんだうして居たよ、——俺はあの時氣がつく筈だつたが——藤兵衞を疑つたばかりにお杉には氣がつかなかつたのは不覺さ。
矢玉やだまおと顛倒てんだうして、御臺みだい御流産ごりうざんていともえる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お靜はあまりの事に顛倒てんだうして、平次の膝にすがり附くと、赤ん坊のやうにイヤイヤをしながら泣きました。
二人はあまりの事に顛倒てんだうして、其處までは打ち合せて置かなかつたのです。それと氣がついて、お銀さんは蒼くなつてしまひました。錢形の親分はきつと氣が付くに相違ないと
養ひ娘のお冬は、すつかり顛倒てんだうして、お勝手へ、店へと、急を告げに飛んだのです。
、平次に掴ませようとしたのは、あまりの事に顛倒てんだうして、取り敢へず岡つ引の觸りを
柏木では主人藤兵衞が死んで、三日目の此の騷ぎに、眞に上を下への顛倒てんだうぶりです。
しかしこれだけ顛倒てんだうすると、急にお勝手へ飛んで行つて、行燈や手燭を持つて來るほどの氣の廻る人間もなく、お勝手に居る飯炊めしたきと近所の女房達は、奧の騷ぎにすつかりおびえてしまつて
平次は多勢の眼に迎へられて、明るい店に入りながら、一應八方へ氣を配つて見ましたが、唯もうこの事件に顛倒てんだうしてしまつた人達の、硬張こはばつた顏からは、何んにも讀み取りやうはありません。
顛倒てんだうした小娘が、死骸の手に氣のつかなかつたのも無理はありません。
小峰右内は、武家の御用人らしくもなく、少し顛倒てんだうして居りました。
「左樣、何分の騷ぎに顛倒てんだうして、雨戸を閉めるのを忘れてゐたのだ」
お國は氣も顛倒てんだうして