鋳物いもの)” の例文
旧字:鑄物
けれど、すずめは、ついにくるあさまで身動みうごきもできず、けることもかなわず、鋳物いもののようにえだまっていました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
写生文の三つであった事は前回にべた通りであったが、その他居士は香取秀真かとりほずま君の鋳物いものを見てから盛にその方面の研究を試み始めたり
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「それ見い。やって見れば、おぬしにはこれだけの腕はあるんじゃ。だからわしが鋳物いものをやれとあんなにすすめたんじゃに。——」
食品屋へ頼むと横浜から取り寄せてくれるが鋳物いものだからは少し高いけれどもこれさえ一つあると、普通の火鉢で軽便に出来る。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
更にそれを鋳物いもののときにつかう釘抜のような鉗子かんしの先へ固定し、大原の咽喉笛をはさみ切って殺そうと計画したのである。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それは人間にも鉄の鋳物いもののようなのと、鋼鉄のようなのとあるということです。美と粗雑さとの相異が何というあることだろうということです。
二三日前からコークスをき続けた大坩堝おおるつぼが、鋳物いもの工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの瓦の形を近頃秀真ほずまと云う美術学校の人が鋳物いものにして茶托ちゃたくにこしらえた。そいつが出来損なったのを僕が貰うてあるから見せようとて見せてくれた。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
水から這い上がったばかりの、船頭文次の手の上には、金鱗燦きんりんさんとした一尺ばかりの鋳物いものの鯉が載っているのです。
それは牛込うしごめ神楽坂かぐらざかの手前に軽子坂かるこざかという坂があるが、その坂上に鋳物いもの師で大島高次郎という人があって、明治十四年の博覧会に出品する作品に着手していた。
それから天井てんじょうの真中から蒼黒あおぐろい色をした鋳物いもの電灯笠でんとうがさが下がっていた。今までついぞここに足を踏み込んだためしのない彼はわざとそこを通り越して横手へ廻った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亭主は、河向うの鋳物いもの工場へ勤めているので、大抵毎日その細君は一人で留守居をしている。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
細くなって消え失せると、あたりが死んだように静かになる。二人は枯草かれくさの中に立って仰向いて鴉を見ると、鴉は切立きったての樹の枝に頭を縮めて鉄の鋳物いもののように立っている。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
「あああの空気孔か」と、総一郎は白い天井の隅に、一升ますぐらいの四角な穴が明いている空気抜きを見上げた。そこには天井の方から、重い鋳物いもの格子蓋こうしぶためてあった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東京近くの県で比較的様々な郷土品をつのは埼玉県であります。秩父の仕事は既に織物の個所で語りました。東京の北を流れる荒川の向岸に川口かわぐちの町があります。鋳物いものの技が盛であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鋳物いものの香炉の悪古わるふるびにくすませたると、羽二重はぶたへ細工の花筐はなかたみとを床に飾りて、雨中うちゆうの富士をば引攪旋ひきかきまはしたるやうに落墨して、金泥精描の騰竜のぼりりゆう目貫めぬきを打つたるかとばかり雲間くもま耀かがやける横物よこものの一幅。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
股野の首をいた腕が鋳物いもののように、無感覚になっていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母のないあと鋳物いもの職人の父さんと、幼い弟妹たちの母がわり
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
「おやじは小さな鋳物いもの工場をやってんだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
おおきな鋳物いもの砲筒ほうづつっ張って行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その仕事場しごとばだいまえに、一つばさながとりがじっとしてっています。ちょうど、それは鋳物いものつくられたとりか、また、剥製はくせいのようにられたのでありました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼の父が始めて南蛮鋳物いものの術を習いに幕府からヨーロッパへ派遣させられた時のみやげである小さい浮き彫りの鋳物をふところに入れると包みをかかえてふらりと表へ出た。
この静かな判然はっきりしない灯火の力で、宗助は自分を去る四五尺の正面に、宜道のいわゆる老師なるものを認めた。彼の顔は例によって鋳物いもののように動かなかった。色はあかがねであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どう考えても、鋳物いものの仏像が瞬きをする理屈はないのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それにしても、鋳物いもののようにうごかないのはおかしいな。まさか、かかしではあるまい……。」
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「君、鋳物いものをやる気はないんかね。おとっさんの伝でやって行きゃ、たちまち日本一だが。」