鉋屑かんなくず)” の例文
そして近所の普請場から鉋屑かんなくずや木屑をを拾い集めて来て、お島の家の裏手から火をかけようとさえするところを、見つけられたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
容器も始めは碗や皿であったのが、コバ飴といって鉋屑かんなくずに包み、または笹の葉や竹の皮に挟んで運ぶのを珍重するようになった。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分はその辺りに転っている鉋屑かんなくずを見、そして自分があまり注意もせずに煙草の吸殻を捨てるのに気がつき、危いぞと思った。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
この地階に終日木を削っている大工さんが一人一年じゅう仕事をしているらしく、夥しい木材と鉋屑かんなくずの中に仕事をしていた。
錫はさういふ風にして、けづり取られて、うすい鉋屑かんなくずになつて落ちました。それは縮んだ紙のやうに巻いてゐるものです。
そのうえ、いつも地面やごみの中に寝るものだから土や泥によごれて、木の葉や木っぱや、鉋屑かんなくずなどがくっついていた。
夜中過ぎになって、妙にキナ臭いと思って、起きてみると、ひさしの下に積んである、木っ葉や鉋屑かんなくずに火がついて燃え上がりかけてるじゃありませんか。
きち様と呼ばせらるゝ秘蔵の嬢様にやさしげなぬれを仕掛け、鉋屑かんなくずに墨さしおもいわせでもしたるか、とう/\そゝのかしてとんでもなき穴掘り仕事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朽葉の古法衣ふるごろもに、そこらで付けた鉋屑かんなくずをそのまま、いよいよこの東国の土と人間とを、その姿のうちに渾然こんぜんと一つのものにして無造作に歩いてきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三「ところが左様そうじゃございません、鉋屑かんなくずの中へ寝転んで煙草を呑んでいました、火の用心の悪い男ですねえ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何かかんなをかけていましたが、あのときもひどくあわてて、その鉋屑かんなくずや木片を押入れへ投げこんだように、今も、この泰軒の言葉に大いに狼狽ろうばいした作爺さんは
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まだ一方には鉋屑かんなくず臭気においなどがしていた。湯場は新開の畠に続いて、硝子ガラス窓の外に葡萄棚ぶどうだなの釣ったのが見えた。青黒く透明な鉱泉からは薄い湯気が立っていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小型とは云え、十数巻のフイルムが、映写したまま、鉋屑かんなくずの山の様に放り出してあった。それが瞬く内に燃え尽す光景は、形容も出来ないすさまじさであった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「はい、はい」と、伊之助は鉋屑かんなくずをかき分けながら出て来た。彼はきのうも松吉に嚇されているので、きょうはその親分が直々じきじきの出張にいよいよおびえているらしかった。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
漁夫たちは、我国の漁夫がブリキの笛を吹くように、貝殻の笛を吹き、燈火が無いので彼等は鉋屑かんなくずを燃したが、それは海面のあちらこちらで、気まぐれに輝くのであった。
大きな海狸うみだぬきの巣に似たタン皮の束が立ってる牧場の所を通り、木片や鋸屑のこぎりくず鉋屑かんなくずなどが山となってその上には大きな犬がほえており、また木材がいっぱい並べてある庭の所を通り
シャツ一枚の森新之助が、鉋屑かんなくずの中に突っ立って、にこにこと、こちらを見ている。右手に小槌、左手にのみを持っているのは、それまで、しゃがんで、なにかを彫っていたらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
如何いかにも力なく風に吹かれて、鉋屑かんなくずなどのようにころがってる侘しい落葉を表象させる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
舟は西河岸の方にってのぼって行くので、廐橋手前うまやばしでまえまでは、おくらの水門の外を通るたびに、さして来る潮によどむ水のおもてに、わらやら、鉋屑かんなくずやら、かさの骨やら、お丸のこわれたのやらが浮いていて
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
地勢から見て、私の借家は其の頃鉋屑かんなくずの如く他愛無く燃え落ちた時分なのでありましょう。子供の顔が眼先にちらついたのは憶えて居りますが、それから後の事は全く追想する事が出来ません。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
わたしが家を建てたとき、それらの一匹は家の下に巣をもっていて、わたしが二度目の床を張り鉋屑かんなくずらいだす前には、昼飯どきにはきまって這いだしてきてわたしの足もとのパン屑をひろった。
そういって、自分のすぐそばで鉋屑かんなくずの中からえりだした木片を持って遊んでいる小さい高子を小突こづいた。思いがけなかったので高子は別に怪我けがをしたわけでもないのにありったけのような声で泣いた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
モトの通りに鉋屑かんなくずを詰めて置きましたものと思われまする……ところが悪いことは出来ませぬもので、翌る朝、暗いうちに風呂番の若い衆が鉋屑に火を付けますと、どうしても燃えが通りませんので
ところどころに削り残された鉋屑かんなくずが残っているのであります。
畑はすっかり土をならされて、沢山な石と材木が入っていた、大工は、墨を引き手斧ちょうなをふるっている。鉋板かんないたから走る鉋屑かんなくずが、いっぱいに其処らを埋めていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切りひらいた地面に二むね四軒の小体こていな家が、ようやく壁が乾きかかったばかりで、裏には鉋屑かんなくずなどが、雨にれて石炭殻を敷いた湿々じめじめする地面にへばり着いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
商売用の羅宇らうのなおし道具は、隅に押しこめられて、狭い部屋いっぱいに、鉋屑かんなくずが散らばっているんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
六三がけは大工の鉋屑かんなくずになぞらえて作られた一種の頭掛けであるが、その鉋屑のような物が時節柄なんとなく涼しげに見えるせいかも知れない、東京の若い女のあたまの上には
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
えゝとなんだナ……鳥渡申上々とりなべちゅうじょう/″\……はてな鳥なべになりそうな種はなかったが、えゝと……昨日さくひはよき折……さア困った、もしお使い、実はね鉋屑かんなくずの中にあったからお土産だと思ってね
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人形の顔がくずれ、鉋屑かんなくずと土のかたまりがパッと散った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山吹やまぶき井手いでを流るる鉋屑かんなくず
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
香りの高いひのきの板を、削り台にそろえて、十人ばかりの大工が、絹よりうすい鉋屑かんなくずを舞わせながら
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真冬の暗い風がふき抜けるので、床下は、身がこわばるほど寒かった。古い鉋屑かんなくずが水気をふくんでたまっていた。天城四郎は、がまのように四つ這いになって、奥へ奥へと這いすすんで行きながら
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはひそかなものだったが、戸のてに入って来るかすかな風は、暖簾のれんをかけてある板の間を通って、ここの風車の糸へすぐひびき、鉋屑かんなくずで出来ている五色の造花が、途端に蝶の感覚のように
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひら、ひら、と白い結び文は、鉋屑かんなくずといっしょに舞っていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)