轣轆れきろく)” の例文
音といふものは、それが遠くなりはるかになると共に、カスタネツトの音も車の轣轆れきろくも、人の話聲も、なにもかもが音色を同じくしてゆく。
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
此時たちま轣轆れきろくたる車声、万籟ばんらい死せる深夜の寂寞せきばくを驚かして、山木の門前にとどまれり、剛一は足をとどめてキツとなれり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし十九世紀のシヨウペンハウエルは馭者ぎよしやむちの音を気にしてゐる。更に又大昔のホメエロスなどは轣轆れきろくたる戦車の音か何かを気にしてゐたのに違ひない。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日は、轣轆れきろくと近づいて来る馬車が、もう遠くのほうから、色のついた燈光に迎えられた。
今はう、さっきから荷車がただすべってあるいて、少しも轣轆れきろくの音の聞えなかったことも念頭に置かないで、早くこの懊悩おうのうを洗い流そうと、一直線に、夜明に間もないと考えたから
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金モールを載せて轣轆れきろくと帝都をはしる貴顕大官の馬車や、開港場の黄金時代に乗って、大廈高楼たいかこうろうに豪杯を挙げている無数の成り上がり者をながめて——一体、こういう人間を作るために
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとになしていだくるま掛聲かけごゑはし退一人ひとりをとこあれは何方いづく藥取くすりとりあはれの姿すがたやと見返みかへれば彼方かなたよりも見返みかへかほオヽよしさまことばいままろでぬくるま轣轆れきろくとしてわだちのあととほしるされぬ。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜の新宿は暗く、朝の宿場は府中、八王子辺から来る馬力が轣轆れきろくとして続いたに違いない。その時分の流行歌に、——一時二時までひやかす奴は、御所の馬丁か宿無しか——というのがあった位だ。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
数万の烟筒は煙を吐いてために天日を暗からしめ、雲のごとき高楼、林のごとき檣竿しょうかん錐鑿すいさく槓杆こうかん槌鍛ついたんの音は蒸気筒の響き、車馬轣轆れきろくの声とともに相和して、晴天白日雷鳴を聞くがごとくならん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
川岸かし荷車にぐるま轣轆れきろくふる
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いまう、さつきから荷車にぐるまたゞすべつてあるいて、すこしも轣轆れきろくおときこえなかつたことも念頭ねんとうかないで、はや懊惱あうなうあらながさうと、一直線いつちよくせんに、夜明よあけもないとかんがへたから
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
轔々りんりん轟々ごうごう轣轆れきろくとして次第に駈行かけゆき、走去る、殿しんがりに腕車一輛、黒鴨仕立くろがもじたて華やかに光琳こうりんの紋附けたるは、上流唯一の艶色えんしょくにて、交際社会の明星と呼ばるる、あのそれ深川綾子なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あおと赤と二色ふたいろの鉄道馬車のともしびは、流るるほたるかとばかり、暗夜を貫いて東西より、と寄ってはさっと分れ、且つ消え、且つあらわれ、轣轆れきろくとしてちかづき来り、殷々いんいんとして遠ざかる、ひびきの中に車夫の懸声
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきおいよく引返すと、早や門の外を轣轆れきろくとして車が行く。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)