かご)” の例文
持って、外へ出ると言えば八人かつぎのかごで出るくせに、エラクないだって、ふん、そんなことを言ってわたしをだますつもりですかい
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼女は兵の百拝を浴びると、まるで凱旋がいせんの女王かのような心理に酔い、そのかごを大勢に打ちかこまれつつ官邸の門へなだれ入った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
職業としてかごになうのでなく、また賃銭ちんせんを要求するためでもない。したがって仮りに賃銭を払われてもこれを受くるをいさぎよしとせぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
榛軒は市川の家を訪ふに、先づかごに乗つて堀田原ほつたはらに住んでゐる門人坂上玄丈の家に往き、そこより徒歩して市川の家に至つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
御機嫌よう! あなたが今日きょう命拾いをされたのはこれから順調な幸福な生涯を送られるためであるようにと思いますよ。——おうい、かごだ!
夫人は驚いてかごに乗ってゆき、かぎけて亭に入った。小翠ははしっていって迎えた。夫人は小翠の手をって涙を流し、つとめて前のあやまちを謝した。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
で、これと目星をつけた、美男の住んでいる家の玄関へ、今云ったような張り紙をし、それからかごで迎いに来るのだ。
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
相談もまとまったのか、その頃に我々の前には金銀や宝石をちりばめて眼もあやに飾った燦爛さんらんたるかごが現れてきたのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして、かごに乗ったまま階段を運ばれてきた、ひとりの年とった婦人に向って、ていねいにおじぎをしていました。
聞いてみると、将軍と呼ばれている魔神の犠牲いけにえにせられようとしていた。そこで郭は、娘を慰めて待っていると、果してかごに乗って数多あまたの供をれた男が来た。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新婦はかごに乗せられ、供の者大勢おおぜいは馬上でその前後を囲んでり出して来る途中、一つの古い墓の前を通ると、俄かに旋風つむじかぜのような風が墓のあいだから吹き出して
我々はカゴを一挺やとったが、これは簡単なかごで二人がかつぎ、時々更代する男がもう一人ついている。別に丈夫そうな男が二人、袋や余分の衣類や、食料やその他全部を背中に負って行った。
これにたいしても、にせものの病大臣は、かごのままで、ただ轎の垂巾たれぎぬの内から、弱々しげに、手をふって、こたえて見せたのみである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして一つ一つのかごに三、四人くらいずつも乗り込むと、そのまた一つ一つの轎に付いている色の黒い奴隷頭のような人物が手を挙げて合図をする。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
榛軒は流行医で、四枚肩のかごを飛ばして病家を歴訪した。其轎が当時の流行歌はやりうたにさへ歌はれたことは既にかみに記した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
轎夫きょうふが分からぬことをいって賃銭ちんせん強請ねだったり、この旦那だんなは重いとか、が多いとか、かごの中で動いて困るとか、雨が降るとか、橋がないから御免ごめんとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
桂華徳街の百○参号、そこが僕の家なのだが、果たしてその処へ一挺のかごが、数人の者によって担い込まれた。
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄金こがねの金具を打ったかごまち四辻よつつじを南の方へ曲って往った。轎の背後うしろにはおともの少女が歩いていた。それはうららかな春の夕方で、夕陽ゆうひの中に暖かな微風が吹いていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は身づくろいもそこそこ礼をくり返してかごのうちへ入る。轎夫かごかきも九死に一生をえた思い。肩を入れるやいな、飛ぶが如く山をくだって行く——。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東海道中の諸作はつぶさに集に載せてある。河崎良佐は始終かごを並べて行つた。二人が袂を分つたのは四日市である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこにおいて長老たちから芳醇ほうじゅんなる葡萄酒が供せられ、各自かごに乗駕してこの都会の貴族邸へ、賓客としてかれてまいることがしるされているのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
庄司は喜んで帰って、その袈裟をそっと豊雄にわたした。豊雄は富子の閨房へ往ってすきを見て、袈裟をせ、力をきわめて押しふせた。そこへ法海和尚のかごが来た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
中国式のかご不潔ふけつではあるが、読書することもできれば、眠ることもできて、僕には最も都合つごうよいが、轎夫きょうふのがやがやさわぐために大いに楽しみの程度をひくめられる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
金帛きんはくを以て謝することの出来ぬものも、米穀菜蔬さいそおくって庖厨ほうちゅうにぎわした。後には遠方からかごを以て迎えられることもある。馬を以てしょうぜられることもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金粉をまき散らしたような西の空にあかがどんよりとかくれた。そこここの人家の門口かどぐちに咲いていたすももの花も灰色になった。きれいなかごは郊外にある大きな邸宅の門へ入った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
銃を擬した兵卒が左右二十人ずつかごさしはさんで、一つ一つ戸を開けさせて誰何すいかする。女の轎は仔細しさいなく通過させたが、成善の轎に至って、審問に時を費した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かごに乗った女が来て、お前さんを尋ねている、丫鬟じょちゅうも一人れている」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
結納ゆいのう取換とりかわされた。婚礼の当日に、五百いおは比良野の家に往って新婦を待ち受けることになった。貞固と五百とが窓のもとに対坐していると、新婦のかごは門内にき入れられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは見る眼にもまぶしい金と銀の金具をちりばめたかごであった。
棄轎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)