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觀世音
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くわんぜおん
山續きに
石段高く、
木下闇苔蒸したる
岡の
上に
御堂あり、
觀世音おはします、
寺の
名を
觀藏院といふ。
此の
勢に
乘つて、
私は
夢中で
駈上つて、
懷中電燈の
燈を
借りて、
戸袋の
棚から、
觀世音の
塑像を
一體、
懷中し、
机の
下を、
壁土の
中を
探つて、なき
父が
彫つてくれた
淺草寺の
觀世音は
八方の
火の
中に、
幾十萬の
生命を
助けて、
秋の
樹立もみどりにして、
仁王門、
五重の
塔とともに、
柳もしだれて、
露のしたゝるばかり
嚴に
氣高く
燒殘つた。
確に
驛の
名を
認めたのは
最う
國府津だつたのである。いつもは
大船で
座を
直して、かなたに
逗子の
巖山に、
湘南の
海の
渚におはします、
岩殿の
觀世音に
禮し
參らす
習であるのに。