見透みす)” の例文
するさへ邪魔なのに、その家の内部まで見透みすかしたやうなことを言ひふらすのはけしからん……。警察で取りしまつて貰はなければならん。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
本当に愛の実体を認めた事のないお秀は、彼女のいたずらに使う胡乱うろんな言葉を通して、鋭どいお延からよく見透みすかされたのみではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼の見えるつもりでいた自分は、眼の見えない峰阿弥になにもかも見透みすかされていた。彼のいう通り自分は今おそろしい心の顛倒てんとうを支えている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この素寒貧すかんぴん姿を見上げ見下ろされては、はらわたのドン底まで見透みすかされざるを得ない。純色透明にならざるを得ない。吾輩は黙って一つ大きくうなずいた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしが少し詞を控へてゐるのを見て、相手は直ぐにわたくしの腹の中を見透みすかしてしまひました。
自分は強情張りやよってどない苦しいことあっても人に見透みすかされんように努めて来てんけど、そいでも姉ちゃんいうもんなかったらもっと陰気になってたやろのんに
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
与吉は、一人谷のドン底に居るようで、心細くなったから、見透みすかす如く日の光を仰いだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なか/\他人の中へ突出されて、内兜うちかぶと見透みすかされねえやうに遂行やりとげるのは容易ぢやねえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見透みすかしても旦那の前は庇護かぼうてくるるであろう、おお朝飯がまだらしい、三や何でもよいほどに御膳ごぜん其方そちへこしらえよ、湯豆腐に蛤鍋はまなべとは行かぬが新漬に煮豆でも構わぬわのう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうすればその人の心の状態までが見透みすかされでもするかのように。その小さな茂みはまだかたい小さなつぼみを一ぱいにつけながら、何か私にうったえでもしたいような眼つきで私を見上げた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「それもこのごろでは張合いがないわい、甲府の女どもにまで懐都合ふところつごう見透みすかされるようなこわもてで、騒いでみたところがはじまらない、やっぱり貴様のかおを見ながら飲んでいる方がよい」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十分ばかりつたのち、僕は息を切らしながら、当時僕等の借りてゐた、宿やど離室はなれに帰つて来た。離室はたつた二間ふたましかない。だから見透みすかし同様なのだが、どこにも久米の姿は見えなかつた。
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
細君のことばは己のおこないを一いち見透みすかしているようであった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もし人声がにぎやかであるか、座敷から見透みすかさるる恐れがあると思えば池を東へ廻って雪隠せついんの横から知らぬえんの下へ出る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アッ——と欄干をたてにして見透みすかすと、左の片腕を繃帯ほうたいして、白布で首に吊り下げている。これ、天堂一角であった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軽蔑なさるからコンナ事になるのです。伜には内兜うちかぶと見透みすかされる、女将には冷やかされる……
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それに南蛮胴の鎧と云い、水牛の抱角だきづの帝釈天たいしゃくてんの兜と云い、邪推をすれば、内面の弱点を人に見透みすかされまいとして、いてそう云う威嚇的な扮装ふんそうをしたと思われぬでもない。
與吉よきちは、一人ひとりたにのドンぞこるやうで、心細こゝろぼそくなつたから、見透みすかすごとひかりあふいだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と言うのは彼女の感情を、——かなり複雑な陰影を帯びた好奇心だの非難だのあるいはまた同情だのを見透みすかされないためもあれば、被告じみた妹の心もちをらくにしてやりたいためもあったのだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お秀の顔に軽蔑けいべつの色が現われた。その奥には何という理解力に乏しい女だろうという意味がありありと見透みすかされた。お延はむらむらとした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武蔵は、やや焦心あせった。これで帰ることが無念だった。自分の底の底までを見透みすかされてしまった気がする。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……自分自身に、自分自身を見透みすかされたような、狼狽ろうばいした気持ちのまま……。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこにまた妙な見透みすかせない心の存在がほのめくので、彼女は昔から僕を全然知り抜く事のできない、したがって軽蔑しながらもどこかに恐ろしいところを有った男として
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれ又……とか何とかいうので最初の意気組にも似合わない、恐ろしくアッサリとした別れ方であったが……しかし内実は決してアッサリでない事を、お互いにチャンと見透みすかし合っていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
焦々いらいらとする気持は自から剣に出て、敵の一学はそれを見透みすかし
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新九郎は、胸の裡を見透みすかされて、思わずはッとを下げた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)