臥戸ふしど)” の例文
八五廿日あまりの月も出でて、古戸のすきに洩りたるに、夜の深きをもしりて、いざ休ませ給へとて八六おのれも臥戸ふしどに入りぬ。
父はもう臥戸ふしどへ入っているし、門人たちはみんな月見に出て行ったはずである、誰だろう……と思っているとまたしても
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夫婦が互の出来栄できばえをめ合ったりして、先ずはその夜の遊興もみやびやかに終りを告げてから、程なく二人が臥戸ふしどへ引き取ったのはの刻を過ぎていた。
客の帰りしのち中川は長き談話に疲れけん臥戸ふしどに入りてたちまねむりに就きぬ。妹のお登和嬢疲れは兄に劣らねども大原家の事心にかかりて臥戸に入らんともせず。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
北のやかたの守人もりびとのいうには、南野みなみののはてに定明らしい者がたむろしているとも言い、それは一軒のやかた作りではなく、野の臥戸ふしどのような小屋掛こやがけの中に住んでいるとのことだった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しきまゐらせよと云ひければお梅は夫のとこ打敷うちしき臥戸ふしどに伴ひけるに傳吉も安堵あんどせしにや枕に着くと其の儘にねぶりけるが翌日の巳刻よつ時分漸々起出おきいでかほを清め佛前へ向ひ回向ゑかうし前夜のくし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寒さは寒し恐しさにがた/\ぶるひ少しもまず、つひ東雲しのゝめまで立竦たちすくみつ、四辺あたりのしらむに心を安んじ、圧へたる戸を引開くれば、臥戸ふしどには藻脱もぬけの殻のみ残りて我も婦人も見えざりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひと静まりて月の色の物凄ものすごくなりける頃、やうやさかづきを納めしが、臥戸ふしどるに先立ちて、お村はかはやのぼらむとて、腰元にたすけられて廊下伝ひにかの不開室の前を過ぎけるが、酔心地のきもふと
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
した上はさぞかし氣勞きづかれもあらう程に今宵こよひは早くやすむがよいおれも今夜は早寢はやねにせんと云ば十兵衞は然樣さやうならお先へふせります御免成ごめんなされと挨拶し臥戸ふしどへこそは入にけれ跡に長庵工夫くふうこらし彼の五十兩の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
思いつつればや人の見えつらん夢と知りせばさめざらまじを、大原は昨夜ゆうべの夢のうつつのこしひとり嬉し顔に朝早く臥戸ふしど洗面場せんめんばいたりてその帰りに隣室の前をすぎけるに、隣室に下宿せる大学の書生二
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今はハヤ須臾しゆゆも忍びがたし、臆病者と笑はば笑へ、恥も外聞もらばこそ、予はあわたゞしく書斎を出でて奥座敷のかた駈行かけゆきぬ。けだし松川の臥戸ふしどに身を投じて、味方を得ばやとおもひしなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)