群集ぐんじゅ)” の例文
この時、群集ぐんじゅ押分おしわけて、捫着もんちゃくの中へ割って入ったのは、駐在所の塚田つかだ巡査。年のわかい、色の黒い、口鬚くちひげの薄い、小作りの男であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四つ角まで出ると交番の所に人が大勢立っていた。御作さんは旦那の廻套まわし羽根はねつらまえて、伸び上がりながら、群集ぐんじゅの中をのぞき込んだ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
血だらけだ、血だらけだ、血だらけの稚児だ——と叫ぶ——柵の外の群集ぐんじゅの波を、しゃちに追われて泳ぐがごとく、多一の顔が真蒼まっさおあらわれた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆうべの昌平橋は雑沓ざっとうする。内神田の咽喉いんこうやくしている、ここの狭隘きょうあいに、おりおり捲き起される冷たいほこりを浴びて、影のような群集ぐんじゅせわしげにれ違っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今方いまがたそんな騒ぎのあったとも心附かぬ参詣さんけい群集ぐんじゅは相も変らず本堂の階段をあがりしていると、いつものように、これも念仏堂の横手に陣取った松井源水まついげんすい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ほう、えらい群集ぐんじゅじゃ」と、一人の若者が半ば開いた扇をかざしながらつぶやくと、その声に気がついたように一人の翁が肩を捻じ向けた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この、時々ばらばらと来る梅雨模様の雨にもめげねえ群集ぐんじゅだでね。相当の稼ぎはあっただが、もうやがて、大師様が奥の院から修禅寺へおくだりだ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
純一はとかくこんな時には、透くまで待っていようとするのであるが、今日大村が人を押し退けようともせず、人に道を譲りもせずに、群集ぐんじゅを空気扱いにしてくので、その背後に附いて、早く出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
法会は中途で急に終わって、参列の諸人が一度に退散するために、先払いの雑色ぞうしきどもが門前の群集ぐんじゅを追い立てるのであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わ、と立騒ぐ群集ぐんじゅの中へ、丸官の影は揉込もみこまれた。一人かれのみならず、もの見高く、推掛おしかかった両側の千人は、一斉に動揺どよみを立て、悲鳴を揚げて、泣く、叫ぶ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狭いが、群集ぐんじゅおびただしい町筋を、斜めにやっこを連れて帰る——二個ふたつ前後あとさきにすっと並んだ薄色の洋傘こうもりは、大輪の芙蓉ふよう太陽を浴びて、冷たく輝くがごとくに見えた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわ、そのまぎれに、見物の群集ぐんじゅの中から、頃合ころあいなものを引攫ひきさらつて、空からストンと、怪我けがをせぬやうにおといた。が、丁度ちょうど西の丸の太鼓櫓たいこやぐらの下の空地だ、真昼間まっぴるま
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人間の気を奪ふため、ことさらに引込ひきこまれ/\、やがてたちまその最後の片翼かたつばさも、城の石垣につツと消えると、いままで呼吸いきを詰めた、群集ぐんじゅが、おう一斉いっときに、わツと鳴つて声を揚げた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのあいだに、白媼しろうばうちを、私を膝に抱いて出た時は、まげ唐輪からわのようにって、胸には玉を飾って、ちょう天女てんにょのような扮装いでたちをして、車を牛に曳かせたのに乗って、わいわいという群集ぐんじゅの中を
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おなじ仕組の同じ獅子の、唯一ただひとつには留まらで、主立おもだつたる町々より一つづつ、すべて十五、六頭だし候が、群集ぐんじゅのなかを処々横断し、点綴てんてつして、白き地に牡丹の花、人をおおひて見え候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
多人数たにんずに囲まれてかよった時、庚申堂こうしんどうわきはんの木で、なかば姿をかくして、群集ぐんじゅを放れてすっくと立った、せいの高い親仁おやじがあって、じっと私どもを見ていたのが、たしかに衣服を脱がせた奴と見たけれども
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
込合こみあ群集ぐんじゅながめて控える……口上言こうじょういいがその出番に
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)