はづか)” の例文
やつと小学校へはひつた僕はすぐに「十郎が兄さんですよ」といひ、かへつてみんなに笑はれたのをはづかしがらずにはゐられなかつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なんともはづかしく、玄関に立つて可笑しさをこらへてゐた奥さんの顔は、自動車が田圃の中の道路を走つてゐる間中、眼に浮かぶのであつた。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
豊ちやんは、はづかしさうな顔をしてやめてしまつたので、栄蔵はほつとした。そして大人の松さんを頼もしく思つた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しこと小西屋のよめと爲といふともはづかしからぬ女なりと長三郎は殊更ことさら戀慕こひしたふ心のまさりゆき夫婦は夫とも意附こゝろづか醫師いしやの言たる言葉を信とし縁談えんだんことわり此騷動さうどうに及びたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
流石さすが娘心の感じ易さ、暗くすゝけた土壁の内部なか光景ありさまをも物はづかしく思ふといふ風で、『ぼや』を折焚おりくべて炉の火を盛んにしたり、着物の前を掻合せたりして語り聞かせる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
既に火宅くわたくの門を出でゝ法苑の内に入らしめ終んぬ、聊か聞くところありしかば、眼前の迍邅ちゆんてんを縁として身後の安楽を願はせんと、たゞ一度会ひてものいひしに、親はづかしき利根のものにて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はづかしいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己は、己の詩集が長安風流人士の机の上に置かれてゐるさまを、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たはつて見る夢にだよ。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
室生もまた僕のあとから「どうした? どうした?」と言つて追ひかけて来た。僕はちよつとはづかしかつたから、なんとか言つて護摩化ごまかしてしまつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ほら、見てごらん、もう泣くよ。ほら涙が出て来たよ。見られるとはづかしいからうつむいてんだよ。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
斯ういふ楽しい問は、とは言へ、長くつゞかなかつた。何時の間にか文平が入つて来て、用事ありげにお志保をうながした。しまひにははづかしがるお志保の手をつて、無理やりに引立てゝ行かうとする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きらふにあらねど未だ未邊女氣おぼこぎのうらはづかしく發揮はき問答へんじを爲さざるなる可し就ては氣永きなが口説くどく時は竟に意に從ふならんと思ふにもず其娘は今度本町の小西屋へ縁談えんだんきまり箇樣々々と糊賣のりうりお金が話したるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
沢山たくさんのしなければならぬ仕事があると思つて、この道を二十年前歩いたのだが、自分は果して、どれだけのことをなしたか。さう思ふと良寛さんは、はづかしいのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼女はあの健気けなげな決心も、全く忘れてしまつたのか、そつとほほ笑んだ眼を伏せて、真鍮の十字架を手まさぐりながら、この怪しい外国人の側へ、はづかしさうに歩み寄つた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
如夜叉によやしやと思ひ込しいと物堅ものがたき長三郎も流石さすが木竹きだけに非れば此時はじめ戀風こひかぜ襟元えりもとよりしてぞつみ娘も見たる其人は本町業平俳優息子なりひらやくしやむすこ綽名あだなの有は知らざれどたぐまれなる美男なれば是さへ茲に戀染こひそめて斯いふ男が又有らうかかういふ女が又有らうかとたがひ恍惚みとれ茫然ばうぜん霎時しばし言葉もあらざりしが稍々やう/\にして兩個ふたり心附こゝろづいてははづか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
広次は妙にはづかしさうに、奥部屋の古畳へ投げ出された桜の枝ばかり気にしてゐた。……
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると如何いかにもはづかしさうに長いを垂らしたなり、何処どこかへ行つてしまつたとさ。
虎の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
秀林院様は右のおん手にお髪をきりきりと巻き上げられ、御覚悟のていに見上げ候へども、若き衆の姿を御覧遊ばされ、はづかしと思召され候や、たちまちおん顔を耳の根迄赤あかとお染め遊ばされ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
マツグは多少はづかしさうにかう小声でつけ加へました。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから——もう一度はづかしさうに笑つた。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)