“繰（くり）” の例文
私（わたし）の長い寫眞物語（しやしんものかた）りのペエジにも悲喜（ひき）こも／″＼の出來事が繰（くり）返されたが、あの刹那（せつな）にまさる嬉（うれ）しさがもう再（ふたゝ）びあらうとは思（おも）へない。
写真と思ひ出：――私の写真修行―― (旧字旧仮名) ／ 南部修太郎(著)
山田さんから伺ったはなしでは「煤烟」の作者は、幾度「煤烟」を繰（くり）かえそうとなすっているかと、ほほえまれるので御座いました。
平塚明子（らいてう） (新字新仮名) ／ 長谷川時雨(著)
暮のやり繰（くり）と違つて、こいつは何うやら思案の仕甲斐がありさうです。それを眞似するともなく、八五郎も高々と腕を拱（こまぬ）きました。
銭形平次捕物控：083 鉄砲汁 (旧字旧仮名) ／ 野村胡堂(著)
始めけるが元より拔（ぬけ）めなき者ゆゑ次第に繁昌（はんじやう）なし此所彼處の屋敷又は大町人などの舂入（つきいれ）を請（うけ）合ければ俄（にはか）に手繰（くり）能（よく）金銀も殖（ふゆ）るに付（つき）地面を求めて普請（ふしん）を
大岡政談 (旧字旧仮名) ／ 作者不詳(著)
私は長い間忘れていた、幼い、しみじみした気持になって、ふと、そこにあった弟の日記帳を繰（くり）ひろげて見ました。
日記帳 (新字新仮名) ／ 江戸川乱歩(著)
（神使社頭へ皈る時里正（まちしやうや）の家に立より酒肴のまうけあり）神使社内へ皈（かへ）りしを見て踊（をど）りの行列（ぎやうれつ）を繰（くり）いだす。
北越雪譜：03 北越雪譜初編 (新字旧仮名) ／ 鈴木牧之、山東京山(著)
巌（いわ）の揺（ゆる）ぐような呼吸が泥舟を圧した。はっと繰（くり）引けば、かえって相手の槍こそ泥舟の胸いたへ真一文字に来ていたのである。だ、だ、だッと踵（かかと）を鳴らして踏み止まる。
剣の四君子：04 高橋泥舟 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
と繰（くり）かへして言つて居升（まし）た、私は漸（やう）やく一銭銅貨のつかひ処（ところ）を見つけて、まづよかつたと安心した。
黄金機会 (新字旧仮名) ／ 若松賤子(著)
すると、和尚は幾度か繰（くり）かへしてその手紙を読んでゐたが、とうとう投げ出すやうに
茶話：06 大正十一（一九二二）年 (新字旧仮名) ／ 薄田泣菫(著)
雪子（ゆきこ）が繰（くり）かへす言（こと）の葉（は）は昨日（きのふ）も今日（けふ）も一昨日（をとゝひ）も、三月（みつき）の以前（いぜん）も其前（そのまへ）もさらに異（ことな）る事（こと）をば言（い）はざりき、唇（くちびる）に絶（た）えぬは植村（うゑむら）といふ名（な）、ゆるし給（たま）へと言（い）ふ言葉（ことば）、學校（がくかう）といひ、手紙（てがみ）といひ、我罪（わがつみ）
うつせみ (旧字旧仮名) ／ 樋口一葉(著)
「豚だって、鶏だってさ、徴発にやられるのは俺達じゃないか、おとすんだって、料理をするんだってさ……。それでうまいところはみんなえらい人にとられてしまうんだ。」彼は繰（くり）かえした。
橇 (新字新仮名) ／ 黒島伝治(著)
きょうのＫ君は不思議にいつまでも芝居の話を繰（くり）返していた。
女侠伝 (新字新仮名) ／ 岡本綺堂(著)
一度喫（たべ）る樣に致て少（すこし）にても母樣の御口に適物を調へて進（あげ）んと思へども夫さへ心の儘ならず然（され）ども鰻（うなぎ）を進（あげ）たらお力も付ふかと存夜業（よなべ）に糸を繰（くり）し代にて鰻を
大岡政談 (旧字旧仮名) ／ 作者不詳(著)
赤く光った一銭銅貨とおんなじだと、繰（くり）かえしていった。
旧聞日本橋：02 町の構成 (新字新仮名) ／ 長谷川時雨(著)
幾度繰（くり）かへしてみても
茶話：04 大正七（一九一八）年 (新字旧仮名) ／ 薄田泣菫(著)