せま)” の例文
同情を呈する事あたはず、いはんや、気宇かめの如くせまき攘夷思想の一流と感を共にする事、余輩の断じて為すこと能はざるところなり。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「基督も『せまき門よりれよ』と仰有つたぢやないか、お前達がこんなステツキなぞ持つてたら窄い門を入るのに邪魔にならあ。」
径路けいろせまきところは、一歩を留めて、人に行かしめ、滋味じみこまやかなるものは、三分を減じて人にゆずりてたしなましむ、これはれ、世をわたる一の極安楽法ごくあんらくほうなり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
去年の出水には、石狩川が崖上の道路を越して鑛泉宿まで來たさうだ。此せまい山の峽を深さ二丈も其上もある泥水が怒號して押下つた當時の凄じさが思はれる。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「君みたいに、せまい道、窄い道と辿ってゆく人を、僕は今までに見なかったし、今後も再び見ないだろう」
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
去年の出水には、石狩川が崖上がけうえの道路を越して鉱泉宿まで来たそうだ。このせまい山のかいを深さ二丈も其上もある泥水が怒号どごうして押下った当時のすさまじさが思われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
寒さをしのいだ、針葉樹の切崖で囲んだ、瓶のようにせまい谷底からは、天も谷川ほどの細さで流れている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
脅かすように突立ったせまい岩壁の間を少し左に行くと、谷は俄然右に開けてまた長い雪渓が始まる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
濁醪どぶろく引掛ひつかける者が大福だいふく頬張ほゝばる者をわら売色ばいしよくうつゝかす者が女房にようばうにデレる鼻垂はなたらしあざける、之れ皆ひとはなあなひろきをしつしりあなせまきをさとらざる烏滸をこ白者しれものといふべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
海拔はさほどに高いところでは無いが山懷のせまいところを鬼怒川が怒流してゐるので氣流の加減によつてか、他處では雨が無かつたのに、聞けば毎日雨があつたといふことで
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
始終人からへだてをおかれつけた内田を喜ばしたので、葉子が来ると内田は、何か心のこだわった時でもきげんを直して、せまった眉根まゆねを少しは開きながら、「また子猿こざるが来たな」といって
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
全くせまい穴の中に這入ったので、時計の内部へ囚人と為ったのと同じことだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
眼裏がんりちりあれば三界はせまく、心頭しんとう無事ぶじなれば一しょうかんなり」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
せまい入口の開いたことだけは、まず疑いがない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
松塘が長句に曰く「去年正月尋君時。手挈杉田梅一枝。今年春又君問我。衝門先覚香風吹。担来繁蕊如人白。一堂照映坐為窄。」〔去年正月君ヲ尋ネシ時/手ニひっさグ杉田ノ梅一枝/今年春又君我ヲ問フ/門ニむかヒテ先ヅ覚ユ香風ノ吹クヲ/かつギ来ル繁蕊人ノ白キガ如シ/一堂照映シテおのずかせまシト為ス〕云々。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
誰か徒為いたづらに旧思想を墨守し、狭隘けふあいなる国家主義を金城鉄壁とあがめ、己れと己れの天地を蠖屈くわくくつせまきに甘んぜんとするものぞ。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
定めしおれの所業しわざをば不審もして居たろうがまあ聞け、手前の母に別れてから二三日の間実は張りつめた心も恋にはゆるんで、夜深よふかに一人月をながめては人しらぬ露せまそでにあまる陣頭のさびしさ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
路は一しきり大に急になり且又せまくなつたので、胸を突くやうな感じがして、晩成先生は遂に左の手こそは傘をつかまへて居るが、右の手は痛むのも汚れるのも厭つてなど居られないから
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
路は一しきりおおいに急になりかつまたせまくなったので、胸を突くような感じがして、晩成先生は遂に左の手こそは傘をつかまえているが、右の手は痛むのも汚れるのもいとってなどいられないから
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)