睡蓮すいれん)” の例文
大きな竹藪たけやぶのかげに水たまりがあって、睡蓮すいれんの花が白くいているようなところを見ながら、朝風を切って汽車が走るのであった。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
たとえば水面に浮かんでいる睡蓮すいれんの花が一見ぱらぱらに散らばっているようでも水の底では一つの根につながっているようなものである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ゆるくく水は、物憂げに動いて、一櫂ごとに鉛の如き光りを放つ。舟は波に浮ぶ睡蓮すいれんの睡れる中に、音もせず乗り入りては乗り越して行く。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも、むかし、睡蓮すいれんの花のようだとよく思い思いした美しいおもかげは、どこかにぼんやり残っていて、それだけに、いっそう、あわれ深かった。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、台の左右には、まるでてのひらに乗れそうな体のお爺さんが二人、真赤な地に金糸で刺繍ししゅうをした着物を着、手には睡蓮すいれんの花を持って立っています。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのためからりとした庭にこけがめずらしく青々として、秋海棠しゅうかいどうがさいている。睡蓮すいれんの葉が浮きながら枯れて、すっかり秋だ。はじめて温度表をみる。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
湖のまわりに数限りなく咲いている睡蓮すいれんの花も、そのはいつものように睡らずに、ミミの姿と一所に、開いた花の影を水の上に浮かしておりました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
たちどころに、春渓尼のまわりは、すべてくれないになった。高時に殉じて次々に自害して行った局たちは血の池に咲いた睡蓮すいれんみたいに、血のなかに浮いた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は、門からすぐ左に折れて罌粟けし畑とお茶畑との間の道を、睡蓮すいれんの花が咲いている小さい古池のみぎわに出ていた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
紫玉はふなばたすがって身を震わす。——真夜中の月の大池に、影の沈める樹の中に、しぼめる睡蓮すいれんのごとくただよいつつ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お艶の胸のときめきが握られた手を通じて栄三郎に伝わると、かれは睡蓮すいれんのようなほの白い顔をのぞきこんだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
水面には睡蓮すいれんをいっぱいはびこらせて、その山椒魚の姿を誰にも見せないようにたくらんで、そうして自分ひとりで頭の幅三尺、身のたけ一丈、と力んでいるのだそうで
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この水を利用して、いわゆる水辺建築を企画するとしたら、おそらくアアサア・シマンズの歌ったように「水に浮ぶ睡蓮すいれんの花のような」美しい都市が造られることであろう。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
トラックの音のときに物うくひびくその水のうえに睡蓮すいれんの花の白く咲いたのもいじらしい……
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
睡蓮すいれんは本当に可憐かれんな花です。孤独の淋しさを悩む無口な少女のようにあわれっぽい花です。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして海の方へ流れずに、永久に永久に太陽の赤い眼の下で騒々しく痙攣けいれんするように波うっている。どろどろした河床の両側には幾マイルとなく、巨大な睡蓮すいれん蒼白あおじろい荒野がある。
すすきしろがねの穂を延ばし、水引みずひきの花は紅に、芙蓉ふようの花は薄紅うすべにに、竜胆りんどうの花は空色に、雑草のに間に咲き乱れ、風に乗せられて匂うのは、木犀もくせいの香か睡蓮すいれんの香か、時雨のような虫の声は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわく、レモン水、過度の運動、労役、疲労、石き、不眠、徹夜、硝酸水および睡蓮すいれんせんじ薬の飲取、罌粟けしおよび馬鞭草くまつづらの乳剤の摂取、それに加うるに厳重なる断食をもって腹をからにし
彼女らは、睡蓮すいれんの広い葉の上に、青銅の文鎮のようにかしこまっている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「移されしさまにも見えずわが池の白き睡蓮すいれんけさ咲きにけり」
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
黄なる睡蓮すいれんの花となり、又しろきうろこうをとなりぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
底知れぬ愁情を照す睡蓮すいれんの花の星
睡蓮すいれんのかたゑまひ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
あの木の下の水面に睡蓮すいれんがある。これはもちろん火事にはなんともなかったに相違ない。ことしの夏、どこかの画学生が来てあれを写生していた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紫玉はふなばたすがつて身を震はす。——真夜中の月の大池おおいけに、影の沈める樹の中に、しぼめる睡蓮すいれんの如くただよひつゝ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中には睡蓮すいれんの花が夢の様に咲いている。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一人ひとり薔薇ばら睡蓮すいれん
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
如法によばふ闇夜あんやに、睡蓮すいれん
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
睡蓮すいれん
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あるいは藁苞わらづとのような恰好をした白鳥が湿り気のない水に浮んでいたり、睡蓮すいれんの茎ともあろうものがはすのように無遠慮に長く水上にそびえている事もある。
黄櫨はぜ山葡萄やまぶどうが紅葉しており、池には白い睡蓮すいれんが咲いている。駒ヶ岳は先年の噴火の時に浴びた灰と軽石で新しく化粧されて、さわったらまだ熱そうに見える。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
睡蓮すいれんを作っている友人の話である。この花の茎は始めにはまっすぐに上向きに延びる。そうしてつぼみの頭が水面まで達すると茎が傾いてつぼみは再び水中に没する。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
睡蓮すいれんの花は昔から知っている。しかし、この花が朝開いて午後にねむるということは、今年自分の家でつくってみて始めて知った。睡蓮という名の所由がやっとわかったのである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
温室の白塗りがキラキラするようでその前に二三人ふところ手をして窓から中をのぞく人影が見えるばかり、噴水も出ていぬ。睡蓮すいれんもまだつめたいどろの底に真夏の雲の影を待っている。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なるほど、睡蓮すいれんには目もなければ手もないから、水面が五寸上にあるか三尺上にあるかわからない。もしか六尺も上にあったら、せっかく花の用意をしてもなんの役にも立たないであろう。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)