目懸めが)” の例文
方角も真直まっすぐじゃないが、とにかく見える。もしあなの中が一本道だとすれば、この灯を目懸めがけて、初さんも自分も進んで行くに違ない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爪長つめながく、おほきさは七しやく乃至ないしじやう二三じやくぐらいの巨鳥きよてうが、天日てんじつくらくなるまでおびたゞしくぐんをなして、輕氣球けいきゝゆう目懸めがけて、おそつてたのである。
銃声がとどろく。硝子ガラスこわれる音。悲鳴ひめい途端とたんに又もや腰掛がぶうんとうなりを生じて美女の顔を目懸めがけて飛ぶ。これは美貌の男の防禦手段だった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これまでなりと観念したる白糸は、持ちたる出刃を取り直し、躍り狂う内儀ののんど目懸めがけてただ一突きと突きたりしに、ねらいをはずして肩頭かたさきりたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晩餐の卓に就いて居た時、動き出さうとする汽車を目懸めがけて四羽のがんの足を両手で持つて走つて来る男があつた。再び汽車が止まると食堂のボオイが降りてそのがんを買つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いぶかる大洞おほほらの面上目懸めがけて松島は酒気吹きかけつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
車輪とレールとの間に、確かな手応てごたえがあった。あのたまらなくハッキリした轢音れきおんが……。佐用媛がいきなりホームからレール目懸めがけて飛びこんだのだ!
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その作物の大体を鷲攫わしづかみにして、そうしてもっとも顕著に見える特性だけを目懸めがけて名を下したまでであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのすき目懸めがけて、摩耶まやを司令艦とする高雄たかお足柄あしがら羽黒はぐろなどの一万噸巡洋艦は、グングン接近して行った。まとねらうは、レキシントン級の、大航空母艦であった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長く白い足で、太腹ふとばらると、馬はいっさんにけ出した。誰かが篝りをしたので、遠くの空が薄明るく見える。馬はこの明るいものを目懸めがけて闇の中を飛んで来る。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る者は、交番の前に、青物の車を置いたまま、印袢纏しるしばんてんで、営門えいもんをくぐった。また或る者は、手術のメスを看護婦の手に渡したまま、聯隊目懸めがけて、飛び出して行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少なくとも、今述べたような目的をもってならば最初からその心得で述作に取りかかっても、ただ述作だけを目懸めがけて取りかかっても同じ事だと私は思ってるのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山の頂上から向うの峠を目懸めがけて写真をうつすにしても、普通の写真だとあまり明瞭めいりょうにうつらないが、普通の光線はさえぎり、その風景から出ている赤外線だけで写真をとると
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
井深は一箇月ほど前に十五銭で鉄瓶てつびんふただけを買って文鎮にした。この間の日曜には二十五銭で鉄のつばを買って、これまた文鎮ぶんちんにした。今日はもう少し大きい物を目懸めがけている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
警官が取押とりおさえようとする手をはらいのけて、勇敢にも室内へ躍り込んだが柱のかげにひそんでいる鬼村博士の姿を目懸めがけて飛びかかって行った。博士は悲鳴をあげて救いを求めた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、はるかの青草原の尽きるあたりから幾万匹か数え切れぬ豚が、むれをなして一直線に、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸めがけて鼻を鳴らしてくる。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はすっかり元気になって、第一隊の先頭に立ち、表玄関を目懸めがけて駈け出しました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
全身に、妙な白い入墨いれずみをした原地人兵が、手に手に、たてをひきよせ、やりを高くあげ、十重二十重とえはたえ包囲陣ほういじんをつくって、海岸に押しよせる狂瀾怒濤きょうらんどとうのように、醤の陣営目懸めがけて攻めよせた。
その発電所目懸めがけて、この怪しい長軸は、ぐんぐん伸びていくのであった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)