白髪はくはつ)” の例文
旧字:白髮
白髪はくはつの支那服の、また牧畜家の、茶目の和製タゴオル老人が、西日の窓に向った私のぼんのくぼに、うまく例の揶揄と笑いとを射撃した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ここにおいて甲斐守はあらたに静岡の藩主となった徳川氏のもとに赴きみずから赦免を請うたのち白髪はくはつ孤身こしん飄然ひょうぜんとして東京にさまよいきたったと云う。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには、おぼろげな電燈の光の中に、白髪はくはつ白髯はくぜん、ロイド眼鏡、寸分違わぬ二人の三笠龍介が、一間とは隔たぬ距離で向き合っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わらわかとすれば年老いてそのかおにあらず、法師かと思えばまた髪はそらざまにあがりて白髪はくはつ多し。よろずのちり藻屑もくずのつきたれども打ち払わず。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人のうちの私のよく覚えている方の神々しいような白髪はくはつの老婦人が、このヴェランダの、そう、丁度私のすわっているこの場所にこしを下ろしたまま
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「さあ、参りましょう。」海蛇は白髪はくはつって恭々うやうやしく申しました。二人はそれに続いてひとでの間を通りました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
白髪はくはつの僧も、十歳の童僧も、仏のおん目からながめれば、ひとしく、同じ御弟子みでしであり、同じ迷路の人間である」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七輪の火が風に吹かれてぱっと燃えあがると白髪はくはつ白髯はくぜん黙々もくもく先生の顔とはりさけるようにすずしい目をみひらいた少年の赤い顔とが暗の中に浮きだして見える。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
米友が塔の上から腰をかがめて、塔の周囲に建てめぐらした石の玉垣の入口で見つけたのは、絵にある卒塔婆小町そとばこまちが浮き出したような、白髪はくはつのお婆さんであります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何だか、頭の上からおさえられるようだ」そういったのは白髪はくはつの多い中河予審判事だった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてそれがわが健康にもひびいて、今年八十八歳のこの白髪はくはつのオヤジすこぶる元気で、夜も二時ごろまで勉強を続けてくことを知らない。時には夜明けまで仕事をしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
つたへていふ、白髪はくはつ老翁らうをうへいをもちてなだれにくだるといふ。また此なだれ須川村の方へ二十町余の処真直まつすぐつき下す年は豊作ほうさく也、菖蒲村の方へなゝめにくだす年は凶作きやうさく也。其験そのしるしすこしたがふ事なし。
ともし連らねた無数の燈明、煙りを上げている青銅の香炉、まずそれはよいとして、神号を見れば薬師如来、それと並んで掛けられた画像! 白髪はくはつ白髯はくぜん鳳眼ほうがん鷲鼻しゅうび、それでいてあくまで童顔であり
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
盲目めくらで、白髪はくはつのおばあさんは、北極ほっきょくこおりうえにいるおばあさんです。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
白髪はくはつの上品な老婦人で耳もかなり遠いらしくこしも曲っている。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぽつり、ぽつり、ぽつりと、奉迎門の明るい電光飾に、三人の褞袍着どてらぎの姿が埠頭はとばの広場に現れる。中の一人は白髪はくはつ白髭しらひげである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
すぐあから顔の白髪はくはつの元気のよさそうなおじいさんが、かなづちを持ってよこのへやから顔〔以下原稿数枚なし〕
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
宿昔青雲志、蹉跎白髪年、誰明鏡裏、形影自相憐宿昔しゅくせき 青雲せいうんこころざし蹉跎さたす 白髪はくはつとし。誰か知る明鏡めいきょううち形影けいえいみずかあいあわれむ〕とはこれ人口に膾炙かいしゃする唐詩なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一本残らず銀線を並べた様な白髪はくはつに変っていたことだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「どうですい。」と、白髪はくはつ白髯はくぜんの、そして朱面の、白い麻の支那服の、頑健そのもののN老人が立ちながら、その頭の上の蕗の葉の一つを仰いだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
白髪遺臣読楚辞 白髪はくはつ遺臣いしん楚辞そじめるを〕
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)