猩々緋しょうじょうひ)” の例文
猩々緋しょうじょうひの服の上に、もう一重ひとえ草色繻子じゅすの肩ぎぬを着ていたが、その背には「ひときり」の一字が大紋みたいに金糸きんし刺繍ぬいとりしてあるのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猩々緋しょうじょうひのような唐紅からくれないに彩られそめたとおもったら、向こう河岸で仕掛花火の眉間尺みけんじゃくがクルクルクルクル廻りだしていた(下略)。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
大将謙信におかせられましては、金小実きんこざね萌黄もえぎと白二段分けの腹当に、猩々緋しょうじょうひの陣羽織、金鍬形を打ったる御兜を一天高しと押いただき……
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
火のような猩々緋しょうじょうひの服折を着て、唐冠纓金えいきんかぶとをかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
夕陽に照らされた地中海は猩々緋しょうじょうひのように美しい。船々の甲板、船々の船檣マスト、そして船々の煙突は焔のように輝いている。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時の将軍様のもちいたにしきのきれはじであり、腰にさげている猩々緋しょうじょうひ巾着きんちゃくは、おなじく将軍火事頭巾ずきんの残りれだという。
白綾しらあや紅裏もみうら打ったる鎧下よろいした色々糸縅いろいろおどしの鎧、小梨打こなしうちかぶと猩々緋しょうじょうひの陣羽織して、手鑓てやりひっさげ、城内に駈入り鑓を合せ、目覚ましく働きて好き首を取ったのは
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
城から打ち出す鉄砲がはげしいので、島が数馬の着ていた猩々緋しょうじょうひの陣羽織のすそをつかんであとへ引いた。数馬は振り切って城の石垣にじ登る。島も是非なくついて登る。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋しょうじょうひのようなものの着物を着て、金の瓔珞ようらくをいただいた」女が空中から襲って来て「妖女ようじょはその馬の前足をあげて被害の馬の口に当ててあと足を ...
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
羽織は猩々緋しょうじょうひかぶとは唐冠金纓きんえいなり。敵これを見て、すわや例の猩々緋よ、唐冠よとていまだ戦わざる先に敗して敢えて向い近付く者なし、ある人強いて所望して中村これを与う。
六十畳そこそこくらいのものだったでしょうか? あちらの棕櫚しゅろの陰に、こちらの椰子やしやゴムの熱帯樹のそばに、敷き詰められた猩々緋しょうじょうひ絨毯じゅうたんの上に、足を組んだり煙草たばこを吹かしたり
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
庭の百日紅さるすべりは、そろそろ猩々緋しょうじょうひの花をひらきかけていた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
地味ちみの痩せをそのまま姿にしているひょろ長い松だ。——その木陰に、ちらと、猩々緋しょうじょうひ袖無そでなし羽織のすそがひらめいていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして月桂樹の冠はFなる魔法使いの頭に落ち、Fなる魔法使いは、その名誉ある冠を以て、空想の少女をまどわさんとし、猩々緋しょうじょうひの舌を動かします。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お絲も猩々緋しょうじょうひのような唐紅に彩られそめたと思ったら、向こう河岸で仕掛花火の眉間尺みけんじゃくが、くるくる廻り出していた。
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
佐々木小次郎は絹の着物の上に染革の袴、立付たてつけに縫ったのをはき、猩々緋しょうじょうひの陣羽織をつけて草鞋わらじ履きである。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
猩々緋しょうじょうひ絨毯じゅうたんを敷き詰めたホールへ躍り込むと同時に、背後から呼び留められた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
平生敵に識れ渡りいた猩々緋しょうじょうひの羽織と唐冠のかぶとを人に与えてのち戦いに臨み、敵多く殺したが、これまで彼の羽織と兜を見れば戦わずに遁げた敵勢が、中村を認めずこれを殺してしまった。
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
巌流は、浮織うきおりの白絹の小袖に、眼のさめるような、猩々緋しょうじょうひ袖無そでなし羽織をかさね、葡萄色ぶどういろ染革そめがわ裁附袴たっつけ穿いていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猩々緋しょうじょうひのように輝いている、凄くて美しい明るい空を背景として人の姿が、七、八人陰影のように現われた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして猩々緋しょうじょうひ絨氈じゅうたんが、天井からの電気に照り映えてこの深夜、最早召使たちもスッカリ眠り就いてしまったと見えて、邸中は闃寂閑ひっそりとして針の落ちたほどの物音とてもないのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
黒革に白革の横筋を入れ、兜形かぶとがたの八幡座に、眉庇まびさし猩々緋しょうじょうひ、吹き返しは白羅紗しろらしゃ縮緬ちりめんの忍び緒をあぎとふかく結んでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火事の光はここまでも届き、空が猩々緋しょうじょうひを呈していた。家々の屋根が輝いて見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
灯火に射られて胸に垂らした金剛石が燦々さんさん猩々緋しょうじょうひの光を放射する。それにも劣らず輝くのは、えた鷲のように物凄いめしいていない一眼である。彼は全く椅子から離れ太刀の柄へ手を掛けた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)