熊谷くまがい)” の例文
熊谷くまがいは坊主になっても軍馬の物音を聞いて木魚を叩きったというが、独逸仕込みは退役になっても独逸仕込みだ。何彼なにかにつけて英国が憎い。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのなかで私が新蔵について記憶している役々は「奴道成寺やっこどうじょうじ」の狂言師、「博多小女郎はかたこじょろう」の毛剃けぞり、「陣屋」の熊谷くまがい、「河内山こうちやま」の宗俊そうしゅんなどで
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思いきや、まだ柳の木蔭に、もひとり人影がたたずんでいた。長刀ながものをぶっこんで、熊谷くまがい笠とよぶ荒編みの物を、がさつに顔へひッかぶった浪人である。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熊谷くまがいのさる豪農に某という息子があったが、医者になりたいという志願であったから、こうの某家に養子にった。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
彼らが「命を捨ていくさをする」のも、熊谷くまがいの言葉をかりて言えば、おのが子の「末の世を思ふ故」である、すなわち家族の生活を保証するためである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
お銀は十年ほど前に、叔父と一緒に一世一代だという団十郎の熊谷くまがいを見てから、ここへ入るようなこともなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女「どうせ熊谷くまがいへ泊るつもりで、松坂屋というのが宜しゅうございますから、そこへ泊りましょう、貴方はお草臥くたびれでしょうから、私がおぶって上げましょう」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
任命は若年寄わかどしより大岡主膳正しゅぜんのかみ忠固ただかたの差図を以て、館主多紀安良あんりょうが申し渡し、世話役小島春庵しゅんあん、世話役手伝勝本理庵りあん熊谷くまがい弁庵べんあんが列座した。安良は即ち暁湖ぎょうこである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「こないだも大ざらいがあって、義太夫ぎだゆうを語ったら、熊谷くまがいの次郎直実なおざねというのを熊谷の太郎と言うて笑われたんだ——あ、あれがうちの芸著です、寝坊の親玉」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
熊谷くまがい安芸あきに移り、武田が上総かずさ若狭わかさに行っても、なお武田であるような風は鎌倉時代の末からである。すなわち日本では地名の方が不動で、家名が動いたのであった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
熊谷くまがいこそは敦盛あつもりを組みしきながら助くる段々、二心極まったり、この由、鎌倉殿に注進せん——という声ではないが、起るべからざるところに、かまびすしい人声が起って
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あたしは、こんな、小さながらだけれど、毛剃けそりだの、熊谷くまがいの陣屋だの、あんなものが好き。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
文化の末ごろからの流行はやりで、坂の両がわから根津神社のあたりまで、四丁ほどのあいだに目白おしに小屋をかけ、枝をめ花を組みあわせ、熊谷くまがい敦盛あつもり、立花屋の弁天小僧、高島屋の男之助おとこのすけ
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
熊谷くまがい土手から降りましたのがその時はしのを乱すような大雨でございまして、くるま便たよりも得られぬ処から、小宮山は旅馴れてはいる事なり、蝙蝠傘を差したままで、湯島新花町の下宿へ帰ろうというので
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どっちだどっちだ、熊谷くまがいかえ? それとも厳島いつくしまの清盛かえ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
熊谷くまがいの芝居の、“組打くみうち”んとこのあの海の道具を……
三の酉 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
御連おつれなされて是から四里八町は餘程よほど夜に入ります殊に此熊谷くまがい土手どては四里八町と申ても餘程丁數がのび五里の餘は必ず御座り升夫に惡ひ土手にて機々をり/\旅人が切られたりあるひは追剥おひはぎ出會であひひどいめに逢事ありてまこと物騷ぶつさうゆゑ何れにも今晩は此熊谷宿へ御宿おとまりあつて明朝は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
子供のうちから熊谷くまがいを勤めたり、時次郎を勤めたりするのは、かえってその俳優を小さくするおそれがあるとの意見であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
俺は消極の悟りから積極の悟りに目が覚めたんだ。熊谷くまがい西行さいぎょうは浮世の無情を感じて人生から退会したが、皆その真似を
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三浦、熊谷くまがい、畠山、足立、平山などの諸将をはじめ、その部下にいたるまでが、われおくれじと、きそっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夫の帰りの遅さよと、待つ間ほどなく熊谷くまがいの次郎直実なおざね……」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
う/\、道場新築祝いだった。その折、余興よきょうに琵琶があった。忘れもしない。敦盛あつもり熊谷くまがいに討たれるところだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この時代には幻灯などというものが今日の活動写真のように持てはやされたのである。その一番目は「嫩軍記ふたばぐんき」で、団十郎の熊谷くまがい、菊五郎の敦盛あつもり弥陀六みだろく、福助の相模さがみという役割であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
敦盛蕎麦あつもりそば熊谷くまがい茶屋ができたのも、みな江戸時代の繁昌が生んだ名物だし、とにかく、一ノ谷城などという考え方の間違いから、いろんな誤解が生まれ、それへ名所名物のお負けがついて
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おれはもう熊谷くまがいだ。ツク/″\浮世の無情を悟って、このモーニングが墨染すみぞめのころもさ」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「私めは、評定所ひょうじょうしょ与力、熊谷くまがい六次郎と申すものにござります」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒谷では、「熊谷くまがい鎧掛よろいかけまつ」というのが枯れていた。妙に強いのが鉢合せをする。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ただいま熊谷くまがいから早馬が飛んでまいりまして」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)